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第5話

「髪伸びたね」 「ずっと会えなかったから」 閉店間際に君が飛び込んで来た。 春雨を潜り抜けた頰が桜色に上気し、濡れた黒髪は風呂上がりのよう。抱けばスーツに隠された部分も、同じ色に染まることを知っている。 「あまり切らないで」 「なぜ?」 「…いつでも来られる理由が欲しくて」 なんて可愛いことを。仕事中でなかったら、今すぐ君の唇を塞いであげるのに。ガラス張りの店内に、焦れる気持ちが広がった。 no.5 志生帆 海 Twitter @seamoonyou

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