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天使との出逢い
少年のとき、僕は、庭園がいくつも広がる御屋敷の真ん中で暮らしていた。
たくさんの使用人に世話を焼かれ、同じような身分の子どもたちがいる綺麗な学校に通う。
そんな生活に、幼い僕は無意識のうちに飽きていたのだと思う。
ある日、病気がちだった母と活動写真を観に行く約束が駄目になったとき、僕はこっそり女中の包囲網を抜け出した。
目指すは、庭園を三つも挟んだところ、敷地の端っこにある小さな家。母や女中に、近づいてはいけないと言い聞かせられていたところ。
そこで僕は、天使に出会った。
天使は、僕と同い年くらいの少女の形をしていた。
日の光に照らされて輝く、長い銀色の髪。
開いた窓から半身を投げだして、ぼんやりと空を眺めている、その姿が美しすぎて見惚れた。雲一つない青空と天使、まるで絵画のようだった。
と、不意に天使の視線が下がる。
マヌケな顔をした僕を見て、パチッパチッと音がしそうなほど大きくまばたきをしたあと、
天使は微笑んだ。
「こんにちは!」
たった一言。
風に溶けて消えてしまいそうな、かすれた声。
それでも、僕を赤面させてしまうには十分で、僕は一目散にその場から逃げ出した。
待って、という後ろからの言葉を聞かないようにして。
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