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天使の歓待

「きみ、飲み物は何がいいかい?煎茶も紅茶も、珈琲だってあるよ。」 「い、いえ、お構いなく……?」 「では紅茶にしよう。お菓子は?何がいいかな。あ、ビスケットがあるや」 「じゃ、じゃあそれで」 「そうだ、昨日焼いたマフィンがあるのだった。それにしようか」 「もう、どうかお好きなように……」 僕は、おかしな状況に陥っていた。 雑多な物が溢れている、予想以上に広い部屋。その部屋の、猫脚の長椅子に僕は腰掛けて、しどろもどろ少女の問いかけに答える。 一通り質問が終わると、少女は満足したように頷いてから、向こうのほうの暖炉へと行って薬缶をかけた。宣言通り、お茶の準備をしてくれるらしい。 それにしても、不思議な部屋だ。 部屋の真ん中には大きなベッド。ベッドの向こう側には暖炉。そこかしこに椅子や円卓が置かれ、壁際には棚がずらりと並んでいる。棚の上には、色彩鮮やかな人形や硝子の置物など、舶来品と思われる調度品が置かれていた。 お母様と違って普段洋館で暮らしている僕だけど、僕が暮らす洋館の部屋より異国風な雰囲気。 そして何より僕が気になったのが、全ての円卓の上に置かれている蝋燭立て。どの蝋燭にも火が灯り、室内は爛々とした光に包まれている。 僕の家が裕福とは言えど、普通、こんなことはしない。今は、当たり前のように電気を使う時代だ。一晩中蝋燭で過ごすのは時代遅れだ。 目の前に置かれている円卓の上の蝋燭をまじまじと眺めていたことに気づいたのか、少女は苦笑しながら言った。 「暗いのが、苦手でさ」 「電気は?使わないの?」 「あんまり好きではなくて。他に人がいるときは電気を点けるけど。一回、いきなり消えたことがあってね。それで苦手になってしまったのだよ」 なるほど、と僕は納得した。暗闇が苦手なら、突然の停電は怖いだろう。 それにしても、と思う。随分、その……お、男前な、喋り方をする女の子だなって。 今だって、ひらひらした洋服のまま、ドタバタと走り回っている。 とうとう、彼女が、僕の座る長椅子のすぐ隣に片膝を立てて座ったとき、我慢できずに言ってしまった。 「その……しゅ、淑女なら、もっと慎ましく振る舞うべきだと思われ、ます!」 それを聞いた彼女は、黙ってぽかんと口を開けた。沈黙が広がる。 部屋にパチパチという暖炉の火が木を燃やす音だけが聞こえて、もしかして気分を悪くさせたか怒らせたかと、心配になったとき。 彼女は、お腹を抱えて笑い出した。

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