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第11話
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行為の最後、咲良に言われた言葉が頭から離れない。考えているうちにぼーっとしていた。
下半身に鈍痛が走る。
薄い意識の中で、チャイムの音が聞こえたから、一時限目には完全に遅れただろう。
咲良はもうこの場にはいなかった。授業に出なければならないんだろうな。
行為の処理はされているけれど、それがなんのケアにもならなかった。合意の上でないし、そもそも俺達は双子だ。自分の身体に対する嫌悪感に悪寒がし、吐き気を催す。
「・・・・・サック~!!!!」
閉まっていた体育館裏倉庫の重い扉が開く。
「ジュンタ・・・・・」
古いベッドに座り込んでいる俺を見下ろし、安堵(多分)の溜め息をつくジュンタ。咲良の言葉を思い出すと胸が切り裂かれる痛みが走った。
「やっぱここ・・・・・」
走って来たのか、息を切らしている。
「え・・・?どうして?」
「何となく、咲良ちゃんがここから出てきたの見えたから」
安心して笑うジュンタ。もう気付いているのだろうか。空間を満たす雄の匂いが鼻に届いているのだろうか。嫌われてしまうだろうか。気持ち悪いと思うだろうか。
「ごめ・・・ん・・・」
涙が浮かぶ。ジュンタが自分から去っていく未来しか思い浮かばなかった。
「どうしたんすか?」
困ったように笑って、頭を撫でる。いつもは自分がジュンタにしている行動。
「・・・・・ごめ・・・・・ん・・・・」
涙とその言葉だけが出てくる。
「殴られたの・・・?蹴られちゃった?それとも、何か酷いことでも言われたの?」
申し訳ない気持ちと、感謝の気持ちでいっぱいになった。
「痛いの?つらい?」
泣く俺。抱き締めてくれるジュンタ。自分と同じ家の匂い。自分と同じ洗剤。自分と同じシャンプー。自分と同じ石鹸。どうしてジュンタが弟じゃないんだろう。どうしてジュンタと家族じゃないんだろう。
どうしていつか離れなければならないんだろう。
「ジュンタ・・・・・ごめっ・・・・ごめん・・・・!」
ジュンタはおろおろして、焦っていた。
「謝るな。泣くな。オレが困るだろ」
あやすようにジュンタは俺の肩を抱きながら、俺が泣き止むまで、もう何も言わなかった。
咲良と同じ高校に入って1年と2ヶ月。咲良と同じクラスになって2ヶ月。今まで全く話さなかったじゃないか。なのにどうして。
「サック~、すっごい謝るけどさ、オレがサック~許さないことなんてないかんな?」
俺の髪を撫でながら、ジュンタは苦笑した。
「え・・・・・?」
「当たり前田の何とやら・・・・・。家族なんだから」
ジュンタの口から漏れた「家族」。視界がまた滲んだ。目の中が熱かった。
何よりも嬉しい言葉。
「ごめん・・・・・・ごめ・・・ごめんね・・・ごめんジュンタ・・・・」
大切な人なんだ。自分の命よりも。誰よりも。
だから一番傷つけるんだ。
俺はジュンタの両肩を両手で鷲掴んで、向き合わせた。
「サック~・・・・・?」
不思議そうにジュンタは俺を見た。
俺は引き攣った表情しか出来ない。言おうか、どうかさえ迷う。けれど。
ごめん。そう言えない代わりに、別の言葉を吐いた。
「俺は、何よりも、ジュンタが大切だ・・・・・・」
まるで花が咲くみたいに、ジュンタは笑った。
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