12 / 50

第12話

**  帰り道、俺はいつも黙っているけれど、ジュンタはよく喋る。もともと口下手だから、ジュンタの性格はすごく助かる。歩いて通学できる距離で、自転車も使わず大抵2人で登下校。高校生はあまり歩かない畦道を通る。黒い学校指定の革靴がよく汚れる。  ジュンタと話す事は決まっていない。ときには番組の特集でやっている甘い物の話や、自分達とは別の男友達とのグラビアなんかの話、音楽や授業の話。日替わりで、ほとんどジュンタが喋っている。 「せっかくだから、今日行っちゃおうか、セブンティワン」  セブンティワンは駅前にある。ここから歩いて20分といったところだ。駅前は他校の生徒たちが行き交い、社会人も多く、賑わっている。セブンティワンは市で有名なお嬢様学校の生徒をよく見る。  予定があるわけでもなく俺は頷く。ここで断ってもジュンタは笑うけれど、頷くと本当に嬉しそうに笑う。  ジュンタはセブンティワンに向かうまで、出身地の沖縄の話をした。沖縄のセブンティワンにはシークワーサーのアイスがあるのだとか。  駅にはたくさんの人が行き交っていた。そこから見えるセブンティワンの自動ドアの奥には女子高生が複数見える。ジュンタは、カールしまくった茶髪の女子高生たちを見つめている。真顔で。好きな子でもいるのだろうか。 「なんだよ、鼻の下伸ばしちゃって」  揶揄するようにジュンタを小突いた。ジュンタは真顔から、頼りない笑顔になり、そうだった?とはぐらかす。  その後も、ジュンタの視線は、ストレートに薄い茶髪を真っ赤なリボンで縛り上げる女子高生に向かっていた。 「ジュンタも年頃だね」  いずれは、ジュンタにもカノジョが出来て、結婚して、子どもが生まれる。そうして俺はまたあの広い家で・・・・・・ 「なんだよ、嫉妬かっ!・・・・・・女の子はカワイイけど、付き合えないよ。あ、もちろん男ともだけど」  ジュンタは俺にチョップをする仕草をしてそう言った。  セブンティワンに入る直前、無骨な学ランの連中が俺たちを囲んだ。この駅前周辺は治安がよくないという噂を思い出す。  周りの視線がちらちらと痛い。 「よぉ、大城」  中心にいる男は、学ランにスラックスは腰パン。耳たぶには銀色に光るピアス。坊主頭と稲妻形の剃り込み。  なんだジュンタの友達かと納得するには口調が挑戦的だ。  ジュンタが俺を庇うように腕で後ろに退ける。 「・・・・・・・?」 「覚えてないか?」  男は稲妻形の剃り込みを指でさす。薄紅色の傷が頭部を鋭く走っている。 「山村・・・・」  ジュンタは俺の手を強く掴んだ。そのまま、歯軋りの音が聞こえて、自分達を囲む輩のなかで一番背の低いやつにタックルする。そうしてジュンタに引かれるように走った。 「追え!」  セブンティワンから女子高生がぞろぞろと出てくるのが見えた。 「ごめん、サック~」  行き交う人々を掻き分けるように走った。けれど連中はずっと追い掛け回している。 「ジュンタ、2手に分かれよう」  俺はジュンタの手を放し、違う方向に走った。  ジュンタは大丈夫だろうか。俺は背後を注意して走った。走って、走って、古い工場の倉庫の中に逃げ込んだ。ジュンタにメールを打っておこう。 「見~つけた」  回りこまれていたのか、さっきの輩と同じような学ランの、茶髪の男が背後から携帯電話を奪って、投げられる。軽快な音を立てて床に落ちたけれど、破片が飛び散ったりはしていない。壊れていなければいいけれどと冷静に考えた。  そうして肩を掴まれ、うつ伏せに倒され、両腕を拘束された。 「お前、大城の人質な。・・・・・・ま、裏切られたらドンマイ」  ジュンタは絶対に来る。けれど、来てはいけない。 「ま、大城のことだから、来ないと思うけどな」  剃り込みの男の印象は好戦的なものだったが、この男の印象は穏やかだ。 「どうしてジュンタを狙ってるの?」 「・・・・・大城に恨みがあるからだよ。お前には悪いけど」 「ジュンタに・・・・・・・何、されたの・・・・?」 「・・・・大城本人じゃねぇけど、ダチが骨折させられて、野球続けられなくなったんだよ。・・・・・エースだったのに・・・・・」  ジュンタは元・チーマーだったことは知っている。そして、脱退したときに集団リンチに遭ったのも。 「お前に恨みはないけど、まぁ、そういうことだから」  俺の知らないジュンタを、この人は知っている。 「大城に関わると碌なことがないだろ。初めて知ったならとっとと縁切っちまいな。いつか本当に殺されるぞ」  茶髪の男はそう言った。 「本当にその通りだ」  古い倉庫にいるのは俺とこの茶髪の男だけだったはずだ。聞き覚えのある聞きたくない声が響いた。 「大城の件は、任せて欲しい。親友の件については、気の毒に思う」  咲良が革靴の音を響かせ、俺と茶髪の男のところまでやってくる。 「大城は来ないだろう。裏切りが得意だからな」   咲良はそう言って、俺と茶髪の男を引き離す。 「本当に、大城と絡むと碌なことがない」  茶髪の男は俺にもう一度そう言って、去っていく。 「なんで咲良が・・・・・・?」 「そういうことだ。咲夜。大城と別れられないんじゃ、もう本当に・・・・・・・・・・・ね?」  俺の問いを無視して、咲良は残酷に笑った。

ともだちにシェアしよう!