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第17話
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「隼汰?おかえり。久し振りだね」
実家に帰るなり、姉貴(双子の妹の方)の紅実さんが笑顔でオレを迎えてくれた。
母方の実家に帰りたかったけれど、沖縄にいきなり帰れるわけもない。
「ただいま。父ちゃんは?」
「あのまんま、家に帰って来ないよ」
何年振りに訪れただろう。確実に二年以上来ていない。
「ふ~ん。郁美さんは?」
郁美さんは新しい(もう古いけど)母さん。どうもあの人が苦手だ。
「あぁ、出てったよ。もう帰ってこないんじゃないの」
紅実さんが棘のある口調で言った。
「オレさ、今日からここに住むから」
「ここに住むって、学校は?遠いでしょ?」
「ん、退学かな。これからはバイトしようと思うんだ」
「そうなの?」
「うん。実紅さんは?」
「洗濯物干してるよ。ホントの姉ちゃんなんだから、さん付けしなくていいのよ?」
オレは懐かしい実家に足を踏み入れた。懐かしい匂いがする。
「黄多さんは家に居る?蒼介さんは?」
黄多さんは長男で、蒼介さんはオレの次に若いヤツ。ぶっちゃけ蒼介さん苦手。
「今は仕事行ってるわ。二人とも」
「・・・・・・・・・そっか」
「どうしたの?」
「蒼介さんはオレと一緒に住むの嫌かな・・・と思って」
「大丈夫よ」
「そうかな・・・・」
「うん」
懐かしい実家に上がった。
*
高校の退学と転校は手続きがとても厄介で、すぐに学校に通えるわけじゃなかった。そうしてやっと、当然だった学校生活の一日目。ここはオレの通ってた中学校に近く、偏差値も低過ぎず高過ぎず高校だからか、オレと同じ中学校だった奴等が多かったからか、結構喋れる奴等が居た。
いきなりどうしたの?とか、やっぱ頭の問題?とか色々好き勝手言われてるけれど、まぁ、そういうコトにされといた方が楽なワケで。
オレはあまり気にしないけどね。フられる女(?)のキモチがちょっと分かったくらい。結構きついんだね。
家族的な愛情っていう意味では本気だった。恋愛感情とかをあの人には持てなかった。
「隼汰」
この高校には中学時代に初めてできたカノジョがいる。
「ねぇ、隼汰、アンタ、何かあった?」
中学の時の初カノの三条がオレにそんなことを言い出した。
「なんで?」
顔に出るものなの?
「いや、なんか、嫌なことあると、いつも唇とんがらせてるじゃん。分かりやすいのよね、アンタ」
「へ?」
「その癖、まだ治ってなかったんだ」
「へぇ・・・・」
「相談になら、乗るよ。前みたいに」
三条に促され、廊下に出る。
「ふぅん。まぁ、流石だよ、六。間違ってない。フられた・・・・っていうより拒絶されたのかな」
「・・・・・・・」
「何でだろ?自分で言うのオカシイから、笑ってもいいけど・・・・さ、オレ、そんな嫌われてないと思ってた。ちょっとウザかったかもしれないけど・・・」
昔の彼女に格好悪い所見せちゃったな。
オレは表情を読み取られるのが恐ろしくて俯いた。
「ウザかったって、珍しいわね~。相手、男?」
「え?なんで!?」
図星。
「じょ、冗談だったんだけど・・・・」
三条本人が引き攣った笑みを浮かべた。
喋ったコトのなかったけれど、不器用に優しい三条に密かに想いを寄せていた時期があった。いや、正確にはこじつけだ。誰も愛したコトのないオレが誰かを愛そうとする為の。それでも、三条に好感は抱けたから。はじめて告白された時は驚いたけれど。
あの時の想いが恋愛感情かと訊かれれば、自信はない。それでも三条に嫌悪感はなかった。
三条を裏切ったようなモンだし、傷つけたのも事実。あまり学校へは通わなかったし、モラル的意味でも三条に迷惑しかかけていない。別れを告げたのオレで。
「ごめんな・・・・」
「何が?」
「ううん。何でもねぇ!!」
オレは誤魔化すように笑った。
「大人びたね、隼汰」
オレは大きく目を見開いた。
三条は笑った。
苦いけど、こうやって大人になってくのかな。
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