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第21話
*
数日が経った。ずっと一人で、待ったのに。
1人でご飯を食べるのも、寝るのも、全部懐かしくて、寂しくて。
「・・・・・大城、家出?」
あいつが送り迎えを続ける。断っても。断っても。
「勝手に入ってくるなよ。警察呼ぶよ」
もとはといえば、お前が・・・という余裕など無かったのかもしれない。
「・・・・・・図星?」
「・・・・だって、咲良が・・・・」
「でも言ったのはアンタ。アンタが自分より大城を選んだだけだろ」
ピロロロロ~
俺の手の中に合った携帯電話が鳴るとほぼ同時に咲良に奪い取られた。
「はい、もしもし。楢原ですけど」
あの着信音は・・・・・・
「あぁ、大城?」
咲良の言った言葉に俺は携帯電話に跳び付こうとした。
しかし、軽くかわされる。
「咲夜なら、お前いなくても元気でやってるよ。お前がいるときより、楽しそうだ」
「ジュンタ・・・・?」
そんな・・・・・
「なんでそんなこと言うの!?」
「ああ、捕まえた?よくやった」
そう言って切られる電話。
何の・・・・・話・・・・・?
電話の相手は・・・?
「・・・・ジュンタ・・・・じゃないの・・・・?」
だって、あの着信音は・・・・・・
「ねぇ、咲夜。あんなヤツ・・・」
ジュンタで登録・・・・したはずだ・・・・
「忘れよ?」
ジュンタの着信音なのに、ジュンタじゃない?
「さっきのは、ジュンタでしょっ!?」
捕まえたって、どういうこと?ジュンタに言ってるの?
「違うよ」
咲良は俺の両腕を両腕で床に縫いとめ押し倒し、覆い被さってくる。
「なんでっ」
「今頃多分、輪姦 されてんじゃない?」
え・・・・・・・・・?
「なんでだよ!ジュンタには何もしないんじゃなかったのかよ!」
「あぁ、そんなことも言ったっけ?」
俺がジュンタと別れたら、ジュンタには何もしないはずじゃなかったのかよ・・・・・
悪魔だ。こいつは人間の皮を被った悪魔。
「お前なんか………」
ジュンタを助けなきゃ。助けなきゃ、助けなきゃ・・・
「騙されたのは咲夜だよ」
これ以上ないくらい暴れて、咲良の両腕から腕を解いた。
「お前なんか!」
覆い被さる咲良という悪魔の胸を叩いた。何度も。
「殺してやる・・・・・!」
「やってみなよ」
俺と血を分けた悪魔。
余裕の笑みを浮かべる咲良の頚動脈に噛み付いた。
「やってよ。オワラセテクレルノカヨ?」
ぼろぼろと涙が溢れた。こんなことになるのなら、もとから手放さなくてよかったのだ。
嗚咽を漏らしながら口を放した。歯形と微量の血液、唾液が咲良の首筋についている。
パァンッ
乾いた音が部屋に響いた。じんじんと熱く疼きだす頬。
咲良が首に両手を回す。力なんて籠もっていない。脅迫のつもりなんだろう。
「木偶人形のクセに!お前なんかただの人形だ!」
そうだ、そうだ、虐げられながらも自由があった俺とは違う、ただの可哀想な人形じゃないか。
「なんだって・・・?愛されて無いくせに!咲夜なんて本当の母さんにも父さんにも愛されなかったじゃないか!」
徐々に力が籠もってくる。
「お前は誰からでも愛されたいんだ!俺が死ねば、自分を愛してくれない人なんていなくなるんだろ!」
だから俺側にいるジュンタだって邪魔でしょうがないんだ
「さっき屋上で言ったことだって嘘だ!ジュンタのことだって!嘘!うそ、うそ、うそ、うそ!嘘でしか自分の自由が手に入らないんだろ!」
息が許す限り、罵ってやろう。俺はコイツを認めないまま、終わろう。
コイツに屈しないまま、コイツを愛さないまま・・・
「僕は絶対に咲夜を諦めない!絶対に・・・っ!」
苦しい。息が出来なくなってきた。
「咲良サマ、美弥子様からお電話です」
綺麗な、第三者の声。まるで助けてくれたかのようにいいタイミングだ。
独り言なのか、問いかけなのか分からないけれど、咲良は首から手を放すと、この場から去っていってしまった。
「混乱してるだけでしょ?そうだ・・・・。そうに決まってる・・・・」
サック~、ご飯できた?
「まだ・・・・だよ・・・・」
頭の中で、彼の声を流した。聞こえてもいない幻聴に返事をした。仰向けのまま天井を見上げていると、眦から涙が耳朶を通って床に滴った。
このリビングから見えるガランとした、空になった机だけが置いてある部屋を見渡した。ジュンタの部屋。ジュンタの匂い。
もう疲れた。寝てしまおう。きっと、覚める。すぐに覚めて、きっとジュンタが起こしてくれる。
ああ、起こす当番は俺だっけか・・・・
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