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第22話

 チュンチュンと小鳥の囀りが聞こえる。   ジュンタが使っていた可愛らしい黄緑色の時計は黄ばんだ壁に真新しい白い跡を残し、無くなっていた。   俺は重い身体を起こし、洗面所に向かう。ジュンタの歯ブラシも歯磨き粉もコップも無かった。もちろん、洗顔フォームも無い。   蛇口を捻る。容赦なく水が洗面器から跳ね返って俺にかかった。冷たかった。   両手で掬って顔に持っていく。   夢ではない、現実。   朝食を摂って、電車に乗り、学校へ行くとやはり今日もジュンタの席は無かった。他のクラスに移動なんて事はまずないと断言できる。今日はいつもより大分遅かったようで、学校についてすぐチャイムが鳴った。   がたがたと煩く教室を飾っていく椅子の音も、何か靄がかかったようにしか聞こえない。   ただ俺の意識はジュンタの既にもう無い席にしか向いていなかった。   誰もジュンタの存在など無かったかのように、平然としていた。 「咲夜」   低くなった声が俺の名を呼んだ。 「・・・・・っ」 「大城、退学の手続きをしたようだ」   いつの間にか隣にいて、後ろから肩を掴まれた。 「もう、忘れろ」   そのまま俺は後ろに引かれ、俺の耳元は咲良の口元に持って行かれ囁かれた。 「お前がその名を口にするな!穢らわしい!」  でも一番口にすべきじゃないのは、俺。   瞳に涙がこみあがった。理由なんて分からない。あるかどうかだって分からない。   捨てたのは俺。捨てられたのはジュンタ。俺が悲しむべきところじゃない。それなのに・・・・・・ 「咲夜。そこまでアンタを悲しませてるのは何?そんな想いするなら、もう二度と他人と・・・・」 「お、俺が、悪い、んだ、よ!!」   情けない。情けない。俺は教室を飛び出した。行く場所なんて無い。でもあそこの教室はジュンタとの思い出が多すぎるんだ。   昨日から泣き過ぎだ。目がヒリヒリするけれど、全然、涙、止まらない。   生きてるけど、もう俺の傍にはいない。もう会えない。死んでると同じ。    生きてきた意味、ない・・・・・?   愛が欲しいなんて思ったコトなかった。何か、誰か愛したいなんて思ったコトなかった。   自分が嫌な目に遭ってまで、人の役に立ちたいだなんて思ったコトなかった。   初めてで最後。   これでも人生充実してる方だと思ってた。俺が居て、ジュンタが居て、あの家があって、俺達の生活があった。経済的に余裕があったワケでもないけれど、不自由は無かったと思う。   俺は体育館の誰も来ることのない壊れたシャワー室に逃げ込んだ。屋上の次に、二人でサボったこの場所へ。   蛇口が取られ、悪戯防止されていた。   ただ泣いた。

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