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第23話

* 「呆れたな」   咲良がシャワー室に来ると、水色のタイルに寄りかかり寝息をたてている咲夜。   何故だか咲夜の行動パターンは読める。   咲良はゆっくりと咲夜の手を取る。冷たい。 「起きろ、咲夜」   咲良が頬を軽く叩くが、寝返りを打つだけだ。姿勢を崩したようで、転倒しそうだったが、寸前で咲良が捕らえた。 「咲良サマ・・・」   もう一人シャワー室に入ってくる。 「早岬部(ささきべ)か」   右眼に眼帯をつけた、男子にしては長めのストレートヘアの少年が咲良の後ろに立った。 「その方が咲夜サマですか?」 「あぁ、頼むよ」   制服が違う。この早岬部という少年は。 「はい」   眉間に皺を寄せた少年。どこか悲しそうに俯いて、そう言った。 「お前の憎い大城隼汰と、えらく仲が良いんだ」 「そうなのですか」   あまり驚いたふうもない。 「だが、お前は咲夜の守りだけをやっていればいいよ」 「・・・・・はい」 「怪しまれないように、天真爛漫なキャラでも作っておくんだな。大城隼汰みたいな」 「・・・・・はい」   眉間に皺を寄せて、俯きながらそう言った。 「教室内では僕に敬語使わなくていいから」 「承知しました」   咲良は起きない咲夜を担いだ。 「それと、君は大城の親友とでも、言っておくべきだな」 「・・・・・・・はい」   悲しそうな、憂いを秘めた左目を、伏せた。 「ただそれだけで、お前の妹は助かるんだ」 「・・・・・・肝に銘じております」   長い髪の下で咲良を睨んだ。   咲良はシャワー室から出て行く。   ただ転校生、それでもって、憎き憎き大城隼汰の大親友を装い主の双子の兄につけば簡単に願望が叶うのだ。あまりに簡単な話で笑えてくる。自尊心を簡単に捨ててしまえばいいのだから。自分の意思を無視すればいいのだから。   早岬部はシャワー室に座り込んだ。制服の胸ポケットから一枚の写真を取り出した。   ピースを向ける明るい笑顔の少女が一人映っている。 「もう少し・・・・。もう少しだよ・・・・祭音・・・・・」   ぐしゃ・・・・と写真に皺がはいったのは、力強く握り締められたから。   転校生が入るという噂は教室内には既に広まっていたようだ。   先生への挨拶は楢原の咲良サマが済ませていてくれたようで二時限目から教室へ真っ先に向かった私には数々の質問が待っていた。   咲良サマの席を見やるけれど、やはり居ない。というのも兄の咲夜サマを保健室に連れて行ったからなのだろうけど。 「ねぇ!!早岬部クン!!」 「な、なんですか・・・・?」 「早岬部クン、何処から来たの!?」 「群馬です」 「へぇ・・・。あ、じゃぁ、あたし、早岬部クンにこの学校案内するね?」 「えっ!?ずっる~い!!私も!!」   どうせすぐ居なくなってしまうのだから、ここで育み築くモノに意義など無い。   最初は色濃く記された存在も日に日に薄くなっていって、思い出されては少し色彩を取り戻しまた薄く消えていくのだから。 「ね?いいよね?早岬部クン?」 「はい」   だから、ここで、別に人に依存する必要なんてないんだろうから。   ガラガラと音を立てて教室に入ってきた咲良サマ。咲良サマは時計を見上げている。私も咲良サマの視線を辿り、時計を見た。   二時限目の授業が始まるまであと6分。 「早岬部クンもカッコイイけど、ほら、咲良君!!冷たそうだけど、すっごくかっこいいの!!」 「あ、・・・・はい。そうですね・・・」 「って言っても同性じゃ分からないよね」 「そういえば、早岬部クンて下の名前は?」 「青空です。青空って書いて、ソラ」   すぐ。すぐ終わるんだから。すぐに。 「へぇ~おしゃれ~」 「かっこい~」 「うん、すごい、そらって感じ」 「早岬部くん」 「早岬部」   4人ほどの女子の囲いの奥から咲良サマが私に声を掛けた。 「はい・・・」 「咲夜の面倒を・・・頼む」 「はい・・・・」   大城隼汰と、仲が良かったらしい。   大城隼汰の手下に私の唯一の肉親の妹が、輪姦(マワ)された。そして手酷い傷をあちらこちらに負わされて。意識不明の重体。   祭音が何をしたんだか、原型を留めない顔立ちになってしまった。何度も殴られ蹴られ。鼈甲色の髪も毟り取られ。   復讐を果たそうと大城隼汰に奇襲をかけ、右目を潰された。   皮肉にも運ばれたのは大城総合病院。なんでも運んだのは大城隼汰張本人。罪滅ぼしのつもりかどうかなんて大城隼汰でない私には分からないけれど、祭音の治療費は完全負担されていた。それでも許せない。    絶対に、私は大城隼汰を許さない。

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