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第24話

*   小さい頃から、身に覚えの無い事件の容疑者として何度もイジメに遭った。その度にまた身に覚えの無い暴力事件で私の居場所は無くなってきていた。それというのも、全て私の責任なのだろうけど。   両親は私を精神科に預けると姿を晦ました。   祭音は案外普通な子で、兄の私と比べてしっかりしていたし、イジメの火の粉が飛ぶこともなかったようだ。   別に祭音を迫害していたつもりは無かった。祭音の人生を滅茶苦茶にしようなんて考えてもいなかった。それでも、愛情を表現するのはすごく難しい。   両親は殆ど私の所為でいなくなったといってもいい。私の意識障害みたいなものの所為なのだから。   祭音は大城隼汰に大層惚れていた。私には彼女にどうこう言う資格など無いに等しかったから放って置いた。二人の関係はよく分からないけれど、御互いの合意があるのなら結婚だってさせてやりたかった。   私と祭音は年子だから、今ならギリギリで結婚出来る年頃。転校を繰り返して来たけれど、私達は一つ留年している。怪我、というのが一番相応しい。     ある日、祭音が病院に運ばれたと連絡が入った。    祭音は物凄い性的暴力に遭ったらしい。複数人の男に輪姦された、と。   言い難い話だったけれど、その複数人の体液が、胃から、口内から、子宮から、直腸から検出された、と。   髪が力任せに毟られ、頭部を洗った時に水が赤くなったらしい。   肉が削げ落ちていると聞いた。   両手両足を火傷していると聞いた。   頭部を強打していて 意識も戻っていない、と。   意識が戻ることはない、とも。  その話を聞いて、「私」としての意識は一端途切れた。  次に目覚めたとき、そこは病院のベッドだった。   ひとつ分からないコトがあった。私とは何なのだろうか。何故右眼が潰れているのだろうか。   そして私はまた真実を聞かされた。   なんと、私は祭音が散々犯された所にいたという。犯した奴等を伸して、大城隼汰と張り合っていたと。   私にそんなつもりはなかった。人との殴り合いは嫌いだった。   大城隼汰に私を負傷させるつもりはなかった。出来るのなら謝罪したい、と。   馬鹿にされているのか、私達は。   意識を戻さない祭音と私の治療費は私が一生懸けても払いきる事の出来ない額だった。   私は初めて身体を売った。何人、何十人と抱かれた。そして出会ったのが咲良サマ。咲良サマは「私」ごと買った。   下手だの何だのと罵る事をされた覚えは無い。ただ黙って身体を繋げるだけだけれどいつも咲良サマは不満そうな瞳で私を見た。双子の兄と比べているようだった。いや、きっとソレは、そういう意味だったのだと咲夜サマの存在を知ってから理解出来た。   咲良サマは私と身体を繋げる時、私を「私」として見なかったのだ。   主に言われやってきた保健室で眠っていた咲良サマの双子の兄・咲夜サマは美しい方だ。 「・・・・・・」   保健室に入って来た私をぼんやりとした瞳で見つめた。 「おはようございます。今日から転校してきた、早岬部です」 軽く会釈した私に微笑みかけてくれたやつれた咲夜サマ。 「大城君と仲が良かったと聞いたので、どんな方かと」 「・・・・・・」   酷く悲しそうな表情をして、苦々しく笑い、黙って頷く咲夜サマ。 「調子、悪いんですか?」     私は咲夜サマの顔を覗きこんだ。 「ううん。ごめん。昨日、寝てなくて」 「遊んでたんですか?」 「違う。親友を傷付けちゃって。きっと嫌われたな、って思ったら、不安になって」   馬鹿らしいよね、と言って、また笑う。 「今、教室にいるんですか?」   何故だか興味が湧いた。咲夜サマか、咲夜サマの御友人か、その話自体にか。   ゆっくりと首を振った咲夜サマ。 「・・・・・」 「ごめん」   謝ったのは咲夜サマだった。 「え・・・?」 「泣きそうなカオしてたよ。・・・・・青空君・・・・・。あ、青空君て呼んでもいい?」   私は何も言わず、何度も頷いた。 「楢原君」 「咲夜で、いいよ」 「じゃぁ・・・・。さ、咲夜君」 「何?」 「咲夜君は、その人のコト、好きなの?」 「うん。多分、大好き。ううん。凄い、大好きだった。この世で一番。家族より」 「・・・・・そっか」 「馬鹿らしいけど、ホント」   ベッド柵に寄り掛かり、絡み合わせる両手を見つめながら咲夜サマは言った。 「青空君にはいない?」   静かに訊いてきた咲夜サマ。 「いるよ。一つ年下の妹が。事故に遭って、今は意識が無いけど、きっと助かると思う」   何故だろう。咲夜サマに絶対的な安心を覚えている。 「ひとつだけ言いたい言葉があったんだ。生きるにしても、ここで、死んじゃうにしてもさ。今気付くとね」   咲夜サマは私の下らない話を、真剣な瞳をむけて聞いてくれていた。 「悔しいよ。幸せだった日々が当然になちゃって、何も感じなくなっちゃうの、すごく、悔しいよ」   咲夜サマが私の代わりに涙を流した。   一筋、二筋・・・数えるのも嫌になるくらい。   私があの日、出掛ける祭音をひきとめてどうにかなったワケではないのかも知れないけれど。ちゃんと、祭音の話を聞いてやる事だって出来た。祭音に、馬鹿な真似はよせと、嫌われる事になっても兄としてやってあげるべきコトはたくさんあった。祭音は泣きたくても泣けない。泣かない。悲しくても、悲しめない、悲しまない。   咲夜サマの涙は、真っ白いシーツに滴り落ちて、シミをつくった。   ただ私の為に涙してくれる事の咲夜サマが愛しい。 「ありがとう・・・・」  大城隼汰の友達だ、なんて言っているのが馬鹿らしく感じてくる。嘘をついていることに罪悪感を覚える。 「助けて・・・・助けて・・・・咲夜サマ・・・・・・」 「・・・・?」  無意識に口にしてしまった。咲夜サマは潤んだ瞳をきょとんとさせ、首を傾げた。 「・・・・あ・・・・・・・」  口をすぐに押さえた。 「何してるの?」   背後からのその声で一瞬にして凍りついた。保健室に響いた冷たい声。 「咲良」 「早岬部、仕事の出来ない人間は、要らないよ」   保健室の入口に寄りかかって私を睨む咲良サマ。 「咲良・・・・・」 「すみません、咲良サマ・・・・・」   静かに私に歩いてくる咲良サマ。 「君に咲夜を任せるべきじゃなかった」     腹部を蹴り上げられ、ものすごい痛みに襲われる。嘔吐感を催したけれど、口をおさえ、なんとか耐えた。 「咲夜」 「な に ?」   咲夜サマは何が起きたか理解出来ないような表情だった。 「よく見ておくんだね」   咲良サマに腕を掴まれ、背中を強く押され床に倒された。 「痛ッ・・・」   容赦なく髪を鷲掴まれ、顔を持ち上げられると、勢いよく床に打ち付けられた。 「や、やめろ!!咲良!!!」   ベッドから降りようとする咲夜サマ。 「来るな咲夜。黙って見てなよ、この子の 罰 を」   咲良サマは制服のスラックスからベルトを抜き取った。 「咲良、やめて!!」 「舐めろ」 「・・・はい・・・・」  前髪を掴まれ、床に膝を着いて、咲良サマの性器を取り出した。 「・・・・・青空君っ・・・・・」  信じられないという目で咲夜サマは私を見た。その目を見ると、心臓を切り裂かれるような痛みを感じる。  唇を窄ませ、勃ちあがっていない咲良サマ自身を口に含んだ。  咲良サマは腰を突き出してくる。喉の奥に当たり、苦しくなって、咽せた。 「へたくそ」  咲良サマが拳が頬に衝撃を与えた。  怖い。痛い。逃げたい。怖い。痛い。嫌だ・・・・・ 「上手くならないね。儲かってたの・・・・?」  嫌だ、咲夜サマに言わないで・・・・ 「やめて咲良!!どうして?どうしてこんなコトするの!?」 「僕はコイツに咲夜の世話をしろって言ったの。楽しく喋ってろなんて言った覚えないんだけど」 「すみませっ・・・・」   衝撃とともに鼻梁が熱くなり、口元まで、つつ・・・・・と何かが流れてきた。あぁ鼻血か。 「歯が当たった・・・」 「やだ・・・・・。やめて・・・・!!」   咲夜サマは頭を振って、咲良サマと私を凝視する。   咲夜サマが涙ぐんでいる。自分は大丈夫。だから泣かないで・・・・ 「うるさいんだよ!!!!」  咲良サマが腰を動かし始めた。口の中を咲良サマが蹂躙する。   私は微笑んで、自分は大丈夫だと伝えるコトしか出来なかった。結局は、私は咲良サマの奴隷みたいなモノであって、逆らう事は出来ない。私が背負っているのは私ではないのだ。祭音。唯一の妹がかかっている。 「・・・・・・咲夜・・・・。似てるだろう?顔こそは似てないけど」   咲良サマはまた髪を鷲掴んで、私の鼻血だらけの顔を咲夜サマに晒す。 「え・・・?」 「何が助けてだ・・・・・・っ!僕から離れたいのかっ!」 「虫酸が走るんだよ!!!」   咲良サマは右目の眼帯に手を伸ばした。   それだけは何人たりとも許せなかった。そんな矜持が私にはなくても、絶対に許せない行為が私にもある。 「やめて!!!ヤメッ・・・・」   嫌だ。嫌だ。嫌だ・・・・・!!! 「やめてぇ!!やめてっ!!やめっ・・・・・ふンッ」  咲良サマを口から放した。喚く私の口に再び強引に突っ込まれる。 「咲良!?」   外された眼帯に、私は涙が溢れ出して、止まらなかった。   大城隼汰に右目を抉られて、もう何も映さない。   何より、もう一人の、私の知らない私を認めたコトになる。 「あ・・・。あぁッ・・・・・」   年甲斐もなく声を出して泣いた。 「咲良ッ」 「・・・・・・・・煩いなぁ」  前髪を掴む力が強くなって、奥の奥まで性器を押し込まれる。 「飲め。一滴残らず」  口内に広がる雄の味。苦しくなって、口から出してしまう。  白い液体が頬を伝って、顎に溜まり、床に滴り落ちた涙に鼻血まで混ざっていた。   咲良サマの命令に背いたけれど、今はそんなのどうだって良かった。 「返して・・・下さい・・・・!!!かえ・・・し・・・」 「・・・・・・・・」   ふと思い出す、イジメられていた頃。   イジメには遭っていたけれど、まだ幸せな日々だったな。  助けて・・・・・   誰か・・・・・

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