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第25話

***   咲夜には信じられなかった。   目覚めると、転校生と名乗る恐怖を感じるくらいの美少年。そして彼を組み敷くのは咲夜の双子の弟。   幼少期に共に過ごした時間が兄弟で以て双子にしては異常なくらいに少なかった。   性格も趣味も特技も外見も似ていないし、咲夜には咲良の性格、趣味、特技に関しては何も知らない。 「ご・・・めんなさぃ・・・。ごめ・・・・・んなさ・・・・い・・・・」  咲良が青空君の眼帯をとると、青空君は顔を見せないように、床にうずくまって、頭を押さえた。 「ごめんなさぃ・・・・・。ごめ・・・んな・・・・さ・・・・・・・助けて・・・」 「どうして咲良は青空君につらく当たるの」 「コイツは咲夜じゃないから。咲夜じゃないなら優しくする必要もない」  青空の前髪を掴んだ。 「よく見ておきなよ、この目。後で、意味が分かるよ」  咲夜の方に青空の顔を見せる。鼻血と精液、涎、涙で光を反射している。 「嫌だ・・・咲夜サ・・・見ないで・・・・」 「咲良・・・・どうしてそんなに俺にこだわるんだ・・・・」 「別に」 「・・・・・・」  青空の悲痛な声に居た堪れなくなり、咲夜は保健室から出て行った。   馬鹿らしくなってきた。何故咲良の言う事を聞くのだろうか、あの少年は。歳だってそんなに変わらないであろう咲良に尽くすあの少年。   やられている行為に屈せず、ただただ穢れを知らない者を装うかのような瞳。無理矢理な明るさ、淋しげな笑顔。相手は男。分かっているけど。   体格が女らしいワケじゃない。顔が女らしいワケでもない。声が女らしいワケでもない。何が可愛いってワケじゃない。何が綺麗ってワケじゃない。そしてこの感情は、俺が彼に向けて然るべきモノじゃない。   彼が泣き叫び、それなのに許しを請わない忠誠心に恐怖心を抱いた。咲良に辱められ、俺は見ていられなくなった。  身体は眠気を訴えている。屋上だ、屋上で寝よう。  保健室から伸びる廊下を歩いて、屋上に向かう。  屋上には自分以外誰もいなかった。     気付けば俺はずっと一人だった。小さいときの環境からか、俺は人にのめり込もうとはしなかった。人にのめり込んでどうする?裏切られたら?拒絶されたら?ただの自分の都合のいい勘違いだったら?つくづく嫌な性格してるのは百も承知。でも身に染み付いたこの考えをどう改めろというのか。   どうしても欲しかったもの。裏切らない、裏切られないトモダチ。   ただ欲しかった。自分の考えを変えた事もあったけど、理解されたコトは、一度も無かった。   一人暮らしの頃、クリスマス、馬鹿みたいに、子供みたいに願ってた。   フェンスに寄りかかって、目を瞑った。   全ての人が消えた、真っ暗のなか、自分一人がただ突っ立ってる。遠くから足音がして、真っ暗の中、ただ待ってた。近付いてきた人に、俺は駆け寄った。ジュンタ。会いたい人だった。それなのに、また消えて、俺はまた独り。   そんな中で、脳裏にちらつくのは美しい眼帯の少年。  もう気まずくなって、話してはくれなくなるだろうか。今日また会えたら話しかけてみよう。彼と話したい。彼を知りたい。  そして彼に  触れたい。

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