32 / 50

第32話

**   今日は、青空の誕生日だった。   咲良は病院の帰りに小さな雑貨屋に寄ってプレゼントを買っておいた。   青空にプレゼントを買うのは初めてだから、咲良にはプレゼントになりそうな物を手に取り、青空の事を考えてみるのは照れ臭かった。   もうすぐでで日本を離れると決めた。その時は青空も連れて行くべきなのか迷う。   イタリアに渡って。それで結婚。   感情を表に出すのは苦手だったけれど、うっすらと笑みが浮かんだ。   多分今日は咲夜の家に居るだろう。   あと50メートルそこらで咲夜の家に着く筈だ。              「私を・・・・・買ってくれませんか」   そう言われたのは非常に寒い冬の季節。雪は踝を隠し、吐息は白く染まっていた。にも関わらず、路地裏に居た少年は草臥れた薄いセーターしか身に纏っていなかった。   何故自分が路地裏になど入ったのだろうか。ホームレスの溜まり場と聞いたそこで飼われていた犬が怪我をしていたから、治療をしてやるつもりだったんだ。幼くして紡がれた夢を諦めきれなくて、勉強の合間に獣医の勉強もしていた。だからちょっと試してみたくなって、路地裏にいた負傷した犬を使った。だから様子を見に行く為にこの路地裏には入り浸った。   犬の包帯を取り替えて、帰ろうとした時にここには不似合いなくらいに綺麗な顔立ちの少年が、変な集団に絡まれていた。   突き飛ばされて、路地裏を出て行こうとする自分の前に倒れた少年は、起き上がるなり、そう言って来たのだ。   咲良はふふっと柄にもなく優しい笑みを浮かべた。   暗くなった外。街灯が咲良を照らす。   ふと顔を上げると、咲夜の家の少し前。   綺麗な装飾の施された扉。金色のドアノブに手を掛けた。   扉を開けると、咲夜の匂いがする。この前来た時は大城隼汰の匂いも少なからずしていた。   二階に向かう階段を静かに上がる。   毎日掃除されているのか、汚れが目立たず、埃もまだ一つも見てはいない。   咲夜の部屋の位置は、階段を上がってすぐ左の部屋だ。部屋の前には洗面所がある。 「さ・・・・・」   扉が少し開いていた。覗くつもりはなかったけれど、偶々目に入ってしまった。   ベッドで寝そべる咲夜に青空が添い寝をし、咲夜の柔らかい髪を真っ白い手で優しい手つきで梳いている。   目を見開いて咲良は俯いた。髪で瞳が隠れたけれど、口元には自嘲的な笑みがうかべられた。                    ああ、馬鹿だ。僕は。   青空を咲夜につけたのは、大城隼汰を失ったばかりの咲夜が何をするか分からなかったからだ。青空に彼の護衛を任せたつもりだった。よくよく考えてみれば、愛に飢えた咲夜に青空の様な人柄の者をつけてしまえば、こうなる可能性は低くは無かった。   手にしていた青空へのプレゼントが手から滑り落ちて、箱が形を変えた。ガシャンという音がした。 「誰ですか・・・?」   青空がその音を聞きつけたようで、咲良の元へ寄って来る。   咲良は、唇を噛み締め、形を変えた箱を見ていた。   ギィ・・・と鈍い音を立て開かれた扉。 「さ・・・・・き・・・ら・・・サマ・・・・・」   咲良は目の前に立ち、驚いている青空を睨んで、引き返した。 ――愛されてないのは 僕なんだ。  次の日、学校に行った。常に横にいるはずの奴隷が今日はいない。咲夜と来たのだろう。  奴隷は下駄箱で、女生徒と話していた。近くに咲夜はいなかった。          「早岬部くん、わたしと付き合ってくれないかな」  軽そうな外見の女生徒が奴隷にそう言った。身体がかっと熱くなって、もときた道を戻った。

ともだちにシェアしよう!