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第35話

****   早岬部 青空もとい海森 寛貴が生まれたのは、関東地方の北西部の群馬県だ。   母親はパートで働きながらも家事育児を行い、父親は何だろうか。記憶に残っていない。   寛貴が生まれて次の年、妹の祭音が生まれた。   才能に溢れ、「天才児」とも言われた寛貴の性格は凶暴で乱暴、野蛮であり、妹の祭音は穏和しかった。   問題を起こす息子に父親は恐怖心を抱き、父親のそれは息子の母親・父親の妻に向いた。   暴力的な寛貴に友人は少なく、自分に恐れただ従う者が多少いただけだ。先生も恐れて、時々には授業に参加せずふらつき、教室に居る時は大概寝ている。それでも、学問は少しのポイント、基礎を齧るだけで、クラスだか学年だかの1、2番にはなれてしまう。   影で周りの保護者達や先生は「バケモノ」、同級生からは「ズルイ」だのと言われ続けてきた。   そんな寛貴にも一人、友達が出来た。その友人は早岬部 蒼多。都会から療養の為と群馬県に引っ越してきたらしい。   正反対の性格だった。神経質とまではいかないが、繊細で心優しく、芯の強い子。   身体が弱く、内気で、学校の休み時間は読書か勉強をしていた。   幼い子供というのは残酷で、一人では純粋な可愛い存在だが、集団となると、悪魔のように豹変することだって出来る。   もしこの幼い生徒の誰かが転校生が病気を治す為に引っ越してきたと知ったら、それを皆に黙っていられるだろうか。この学校の、その「生徒」は、否。   「クラスに入るびょーげんたいをハイジョしよう」と、それが先生に、誰かに褒められようと、認められようとする健気な姿勢だった。   クラスのボスのような存在である寛貴の居ない教室では、次第にイジメが始まった。悪口やら無視やら、そんな程度でない。暴力、暴言。どちらがマシなのかなんて分からないけれど。   蒼多は、流石に読書や勉強ばかりしていただけあって、周りの自分より幼稚な生徒の中では浮いてしまう「天才児」寛貴とは話が合った。   寛貴自体に、「イジメ」という普段自分でやっている低レベルな遊びになど興味がない。寛貴が教室に居る時、近くに居る時は蒼多がイジメられる事はなかった。  前に生徒同士で喧嘩を起こした時に喧騒で目覚めた不機嫌な寛貴                   「調子こいてんじゃねぇぞ」   意味など分からなかったが、怒らせてはいけない人・寛貴が怒っているのだけは生徒にも理解出来た。  ある日の放課後に小学部二年生の校舎の屋上で寝転がる寛貴の元に蒼多が寄って来た。 「寛貴君」 「あぁ?気安く呼ぶんじゃねぇっ!」 「ご、・・・・・・ごめんなさい」 「つか、誰だよ、お前」   蒼多に背を向けたまま横になっている寛貴。 「あ、え・・・・っと、転校してきた、早岬部 蒼多です・・・・」 「ふぅん」 「あ・・・えっと・・・・」 「あ?」 「あ、ありがとう」 「何が」   小学二年生というと、どいつもこいつもバカ丸出しで話した気すら起きない。まともな会話は家くらいだ。(とは言っても会話に溢れた家庭ではないが) 「ひろ・・・海森君が居る時は、おれは、イジメられないから・・・・」 「そら」 「そうた・・・・・」 「おい、そら」 「そうた・・・」 「いいから」 「何・・・・?」 「勘違いすんなよ偶然じゃねぇのか。俺に感謝することじゃねぇ」 「・・・・・でも、ありがとう。おれをイジメないでくれて。無視とか、そういうの慣れたから」   年甲斐もねぇな、と呟く寛貴も充分年甲斐がない。 「海森君は、スゴイんだってね。聞いたんだ」   俯く蒼多。 「どういう風にすげぇの」 「大人みたいだって言ってた」 「あんな幼稚なバカ共と一緒にすんな」 「幼稚って・・・」 「まずボキャブラリーの低さ。噛み砕いて説明しないと納得しやがらねぇ」 「やっぱりすごいや」 「あっはっは。オレもそう思う。なっかなか話合わなくてね、周りの子と」 「俺もだ」   驚くだろうな。おれが海森君に怒られると思っておれを海森君の所に行かせたんだろうけど、逆にちょっと海森君に近付いちゃった。 「お前気に入った。俺の事、寛貴って呼んでいいぜ」 「サーンキュ。おれの事は、蒼多な」 「おぅ、そら」 「そーた・・・・」 「・・・・・あ、思い出したわ」 「え?」 「あれだ。新しく配られた名簿にあったわ。漢字は蒼が多い」 「うん」 「それで読みは そら」 「どうやって そら って読むのさ。そうた でしょ」 「そら だって蒼多いだろ」 「もういいよ、そらで」   お互いにきっと、初めての友達だったんだろうな。 「う~ん。そら なら当て字で あおぞら て書いて そら がいいな」 「・・・・・ほぉ・・・・」   初めての友達。寛貴は起き上がって、蒼多の方を見た。   初めての友達。初めての感覚。初めての温もり。   蒼多が寛貴と友達になってから、蒼多がイジメられる事は無くなった。   少しずつ、徐々に、寛貴の歪んだ性格が矯正されていく気がした。   授業に積極的に参加するようになり、挙手するようになった。蒼多のよきライバル。   二人は毎日、一緒にいた。お互いがお互いを想い遣る器用さはなかったけれど、それが楽しく、嬉しかった。   振り向けば、既に蒼多が転校してきてから二年経っていた。      「お前、今日、誕生日だろ。今まで忘れてたわ」   「・・・・・え・・・?」   「名簿にあった」   「あ・・・・・・、そうだね。今日だ」   「おめでとう」     初めて渡す、誕生日プレゼント。     生まれてきてくれてありがとう。生んでくれてありがとう。生かしてくれてありがとう、の日   「ぅっわぁ、ありがとう」   「へへっ。俺が3時間悩んだんだぜ。あえて大人物だ。大きくなっても、俺達友達でもいいか?」   「勿論だよっ!」   「だからそれは、その証だ」   「じゃぁ、おれ、寛貴の誕生日に片方を渡すよ。そうしたら、お揃い」   「あぁ」   「絶対渡しに行くよ。絶対だよ」   「あぁ」    シルバーのチェーンについた2つの同じシルバーリング。それは小学生のつける物ではなかった。

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