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第44話
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「咲良さん?」
タンスから衣類を出して箱にしまう女性が咲良を呼んだ。
「・・・・・なんだい」
「いいんですか?自宅にお帰りにならなくて」
「構わないよ。あそこは嫌いだ」
「・・・・そうですか」
黒い長い髪の女性。年は僕より4つ上。
親に金の為に僕と無理矢理結婚させられる哀れな娘。
「・・・・・・逃げたいだろう?恋人の元へ」
咲良が18歳になるまで、時間はまだある。
「僕と結婚するコトが君の親孝行だというのなら、それは間違いだ。きっとあの家は君の家に一銭も払わない。そういう奴等だ」
「・・・・・・・・」
「イタリアに飛ぶのが夢じゃないだろ」
「・・・・・・・咲良さんは、私と結婚は、嫌ですよね」
微笑む女性は苦手だった。自分の母親は、自分に微笑みかけてくれたことがない。
「・・・・・・・・僕に家庭を持つ資格なんてないんだ」
愛も恋も分からなくなって、実の兄を犯した。
本当は、「兄」という一番近い存在を感じたかっただけだった。
兄はいる。兄はいるのに。その存在を感じたことはなかった。
自分は誰かを愛してはいけない。自分は誰にも愛されない。
自分はただの名誉の駒。人並みの家庭を持つべきじゃない。
親の駒は、幸せにはなれない。
イカれた家に嫁いだイカレた母親。この女も、自分のもとへ嫁げば、気が狂うのだろうか。
「イタリアに、行きましょう」
イタリアに逃げる。この女も連れて行く。これは家出だ。
「ついてきてくれるのか・・・・?」
財力しか持ち合わせていないのだ。愛も何も、それ以上は持ち合わせていない。
「はい」
お互い同じなのかもしれない。
親の為と、人生を狂って生きてきた者同士。
友人と遊ぶ、兄弟と遊ぶ。そんな普通のことすら出来ずに、ひたすら親の機嫌を伺って、夢を諦めて。ひたすら勉強だけを、親の作った線路をただ辿っていく。それだけの人生。
ごめん、咲夜。
許されないかもしれないけど。咲夜。本当はただ、ただ一度、「弟」として「兄」を助けたかった。構ってほしかっただけなのかもしれない。自分は「弟」だと、「兄」に認めてほしかっただけなのかもしれない。
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