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第156話

先生を部屋に入れて、数分が経った。 何から話していいのか分からず沈黙が続いていた。それは先生も一緒のようで、チラチラと俺の顔を伺ったり、俯いたりを繰り返していた。 ここは俺から切り出した方が良さそうだ。 よしっ!と勇気を出して、深呼吸をした。 「せんせ…」 「ごめん!」 話初めが見事に被った。 だけど先生の声の方が少し大きくて、頭を下げられてびっくりして先生の元へ駆け寄った。 「俺、茜くんの気持ち分かってなかった。自分のことばっか考えてて…。嫌になるよね、こんな俺…」 「そ、そんな事ないよ!俺も言い過ぎたし!どんな先生でも俺は好きだよ!」 ぎゅうっと抱きしめて、今の俺なりの好きを精一杯表現する。 先生の手が背中に回って抱き締め返してくれて、とても安心する。この温かさも、匂いも、久しぶりでずっとこの時間が続けばいいのにとさえ思った。 「キス、したい。だめ?」 「ダメだよ、風邪うつるかもだし」 俺もしたい。だけど、その気持ちをグッと堪えて断った。 その返答に、むぅっと顔を膨らませる先生が少し可愛くて、ふふっと笑ってしまった。 「昨日は口移ししたのに」 「っ!そ、それは…、仕方ないというか…っ」 そう、あれは仕方ないのだ。俺が薬を拒んだから、先生が早く良くなるよに薬を飲ませてくれたのだ。 だけどそれがきっかけで先生が風邪ひいたらどうしよう… 俯いていると、グイッと顔を上げられチュ、と軽く触れるだけのキスを落とされた。 「ふふ、今日は触れるだけね」 「…ずるいし…」 無事仲直りでき、好きという気持ちが溢れて堪らなくなって、ぎゅうっと先生を抱きしめた。

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