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第180話

「痛っ!!」 「おはよう。次、当てるから覚悟しろ」 俺をユッキーと間違えて、その上幸せアピールした罰だ、とまだ一つも問題を解けていない真紘にそう言うと、あからさまに嫌そうな顔をされた。幸せなのは悪い事ではないが、今は授業中だ。 別に真紘に嫌われようと痛くも痒くもない。ただ一人、茜にだけ好かれていればいいのだ。 真紘の後ろに座る、愛しい恋人の元へ向かう。 秋月が近づいただけで頬を赤らめる茜が可愛くて、思わずニヤけそうになるのを堪えた。 「どう?分かる?」 「え、……あんまり……」 そう言う彼の手元のプリントにはまだ何も書かれていなかった。 下を向いて秋月の顔を見ようとしない茜にムッとして、何としてもこちらを向かせたいという感情がふつふつと湧く。 「そっか、国語苦手だもんね。ちょっとペン貸して」 「っ!うん……」 茜の握っていたシャープペンシルをわざと手が触れるように奪い、ビクンと震える茜が可愛くて今すぐにでも抱きしめたくなる。 「この問題は、ここの部分を読んだら分かるかも。あと……」 「あっ……」 分かりやすいように教科書に丸を付けてあげて、ノートの端にメッセージを書く。 顔を赤くしてバッと秋月の顔を見る茜。 やっとこっち見てくれた。それだけで秋月の心は満たされる。 ふふっと微笑むと、茜は再び俯いてしまったが満足した。 「秋月先生!分かんないから来てー!」 「はーい、どこ?」 ずっと茜に付きっきりでいたいが、そういう訳にもいかず他の生徒に呼ばれればそちらに行かなければならない。 呼ばれた生徒の周りには、待ってました!とばかりに女子生徒が群がっていた。「分からない」はきっと秋月を呼ぶための口実だろう。 「先生、ここが分からないの。教えて!」 「あぁ、ここはこのページを読むと分かるよ」 必要以上にくっつかれ、胸を腕にグイグイと押し付ける。これ高校生がやる事じゃないだろ、と心の中でため息をつく。確かに胸はある方だろうけれど、茜以外の胸には興味無いのでスルーだ。 ふと時計を見ると、いい時間なので考える時間はここまでにしようかな。とにかくこの状況から抜け出せるならなんでもいい。 それからは淡々と授業を終わらせ、チャイムが鳴るまでに全てを終わらせることができた。宣言通り真紘を当てる事も忘れない。 今回は時間配分がしっかりできたし、三村からの評価も良かったので上々の出来だろう。

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