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第182話
「お待たせ。買ってきたよ」
「あ、ありがとう」
「俺の分のお金渡すよ。フラペチーノ高いし」
「いいよ、このくらい奢る」
そう言うと思った。年上の恋人ってみんな奢ってくれるものなのかな?
茜は誰とも付き合ったことがなくて、秋月が初めての恋人なのでイマイチ恋人のする事が分からないでいた。
ストローに口をつけ、パンプキンフラペチーノを飲む。甘いパンプキンの味が個人的には好きだ。去年は真紘に一口飲ませてみたが、「俺は無理」と言って変な顔をしていたのを思い出す。
「それ美味しいの?」
「うん、俺は好きだよ。一口飲む?」
「飲む」
隣に座る秋月にフラペチーノを渡すと、ストローに口をつけている姿が見える。
あ……、間接キスだ……。もう何回もキス以上の事をしているのに、未だに間接キスでドキドキする。きっと、この先ずっとだろう。
微妙な顔をして、フラペチーノを返された。
「どう?」
「甘いね。あと、カボチャの味がする」
「パンプキンフラペチーノだからね」
秋月は一体何だと思って飲んだのだろうか。思っていた味と違うという事だろうか?
確かに甘すぎる気もするが、甘党の茜にはちょうど良かった。真紘も秋月も、茜ほど甘党な訳じゃない。
「茜くん、甘いの好きだもんね」
「好き。美味しいんだもん」
「うん」
本当に些細な会話だが、秋月は嬉しそうに笑い、茜の頭をヨシヨシと撫でた。
いつもなら「ここ外だからやめて」と言うところだが、今日はスーツ姿の秋月がかっこよくてそんな事どうでもよかった。先程まで授業をして、女子生徒にキャーキャー騒がれていたイケメンは、今は茜に夢中なのだと思うと何だか嬉しい。
ずっと俺の事だけ見てればいいのに。なんて醜い独占欲が湧き上がる。
こんな醜い自分を知られる事が怖い。嫌われたくないから秋月には絶対言わないけれど。
まだ半分ほど残っている冷たいフラペチーノの容器をぎゅっと握りしめた。
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