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《須藤birthday SS10》

「これか……」  そう言って自身の手の下敷きになっていた小箱を取る。箱が潰れてしまっている。 「悪い」  すまなさそうに佑月に小箱を渡そうとする須藤だったが、佑月は首を振る。 「開けて。中身さえ無事ならいいし」 「そうか。ありがとう」  須藤が〝ありがとう〟を口にするのは滅多にないため、佑月の目尻も嬉しくて下がってしまう。 「ううん」  須藤が潰れてしまった小箱の包装紙を破り、箱を開ける。  考えて考えて選んだ物。気に入ってくれたらいいがと、佑月は緊張で唾を飲んだ。 「ほう……万年筆か。しかもMONTBLANC。結構な値段がするぞ」  須藤は心配そうに佑月を見る。  確かに〝いい値段〟がしたことは否定しない。だが須藤は、良いものを持たなければ示しがつかない立場にいる人間だ。色々な人間から見られる立場。恥をかかせたくない。そんな思いもあり、佑月はコツコツと金を貯めていたのだ。 「仁の手に馴染んでくれればいいけど」 「毎日使えば馴染むし、お前からの贈り物だと思えば書き味も抜群だろうな」 「そ、そうかな」  照れる佑月に須藤は口角を緩く上げると、佑月の唇を吸うようにして重ねてきた。

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