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長い一夜(須藤side)

◆  八月も半ば。日本の地は残暑が厳しく、湿度も高い。  エアターミナルから外に出て、迎えの車に乗り込むまでの僅かな時間でも、シャツの下では少しの汗をかく。 「お帰りなさいませ」  須藤の側近、滝川が恭しく頭を下げ、後部ドアを開ける。  須藤は適度な温度に保たれた車内のシートに、ゆったりと腰を沈めた。 「日本はさすがに暑いですね」 「あぁ」  黒塗りの高級車に揺られ、須藤は様々な書類に目を通しながら、秘書である真山に答える。  真山は助手席でスケジュールの確認をしていたが、あまりの暑さで思わずと口を()いたようだ。  須藤は真山と二人、ロシアへと一週間仕事で日本を留守にしていた。  ロシアの気候は日本とは違い、初夏のような爽やかさで過ごしやすい。しかし帰国すると、急激な気温の変化が、真山とて堪えたのだろう。  須藤はと言うと、この後詰まった仕事を早く終わらせることしか頭になかった。 「滝川、はなかったな?」 「はい。心配はご無用です」 「そうか」  須藤は腕時計で時間を確認する。

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