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長い一夜 2

 十三時を回った時間。  この後、三件の取引相手と会った後は、日本を留守にしていた間に溜まった書類に、目を通しサインしなければならない。  帰国そうそううんざりとするが、仕事が終われば褒美が待っている。それが疲れた須藤の唯一の原動力となっていた。 「お疲れ様です。このまま直ぐに向かいます」 「あぁ、頼む」  全ての仕事を速やかに片付け、須藤を乗せたBMWは、とある場所に向かった。  それは成海 佑月が待つ事務所だ。  早く顔を見て、触れたい。そんな欲望がめきめきと沸き上がってくる。  一週間顔を見なかっただけで、こんなにも会いたくなるなど、今までの須藤であれば考えられないことだった。  様々な女を抱いてきた須藤だが、誰一人として須藤の心にも記憶にも残る者などいなかった。そんな須藤が佑月と出会い、一瞬で氷のような心にその存在が刻みつけられたのだ。  溶けた心はそこで初めて(せい)を得たように、温もりを得ていった。 ──欲しい。  その気持ちは日に日に増していくばかりであった。

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