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長い一夜 12
照れているのかと思ったが、顔を戻す気配がない佑月に須藤は少し心配になった。
「どうした? 気分でも悪くなったか?」
信号が赤になったタイミングで須藤は佑月の肩を引いた。驚いたように佑月は顔を須藤へと向けるが。その顔を見た須藤自身が驚かされることとなった。
往来であろうと無性に佑月に触れたくなり、須藤は一瞬の隙をつくように唇を触れ合わせた。案の定、こんな往来でと佑月は怒るが、自分に触れてきたことへの文句ではないことも分かり、須藤はひっそりと口端を上げた。
「いい傾向だな」
「いい傾向?」
「あぁ。お前がさっき自分で吐いた言葉。それと表情 がな」
そう須藤が言うが、佑月は全く分かっていないようで首を捻っている。
「まだ少し時間が掛かるか……。まぁでも今はその表情を見れただけで十分だ」
美しい顔が困惑気味に歪む様を見て、須藤は心裡で笑った。
そう……長期戦と決めたのだ。
必ず手に入れて、一生離してやるものかと、未来 を楽しみにしている須藤がいた──。
END♡
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