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《七夕 2》

 事務所の電気を消し、鍵を閉めて、重い足取りで階段を降りる。雨が先程よりもきつくなっているのか、雨音が大きくなっている。余計に憂鬱となるが、こんな沈んだ顔を滝川に見せるわけにはいかず、佑月は気を引き締めるように背筋をスっと伸ばした。  傘をさし、外へと一歩踏み出したとき、いつもの定位置となっている路駐スペースに、BMWではなく真っ黒なボディの高級車が止まっているのが佑月の目に入り、鼓動が大きく跳ね上がった。 「え……?」  運転席から現れた男は佑月へと恭しく頭を下げると、後部座席のドアを佑月のために開けた。 「成海さんお疲れ様です。どうぞ。中でお待ちです」 「は……はい」  マイバッハ。須藤専用の高級車だ。  中で待っているのは……言わずもがな、今一番会いたい男だ。  佑月が傘をたたむと、それをすかさず真山が持つ。礼を言い、すぐさま乗り込むと、そこは須藤の香りで満ちていた。

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