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【佑月birthday SS 2019】

 広くはないが、白と黒を基調とした店内はとてもシックだ。そしてその店内を一層煌びやかに見せているのは、華やかなドレスに身を包んだ〝レディ〟たちがいるためだ。レディらは笑みを絶やさず、訪れた客を手厚くもてなしている。しかし聞こえてくるのは可愛らしい声からは程遠い、野太い声ばかり。  そんな特殊な空気の中だが、佑月は慣れた様子でカウンター席に腰を下ろしていた。 「佑月ちゃ~ん、今日も沢山話を聞いてくれてありがとう」  語尾に沢山のハートマークが付いていそうな程に、佑月の隣に座る彼女は身をくねらせ、嬉しそうに顔を綻ばせている。その声も可愛い仕草とは裏腹にかなり野太い。  そう、ここはオカマバーだ。そのオカマバーで働く彼女は〝サナエちゃん〟という。【J.O.A.T】の常連客だ。それも佑月指名の。  彼女の恋愛相談という名目で話を聞くのが佑月の仕事だ。今日もサナエは新しく出来た彼氏の事を聞いて欲しいと連絡をくれ、こうして佑月は店まで訪れていた。仕事中であっても愚痴や恋愛相談などを話せる環境であるのは、ママの人柄と店の雰囲気の良さがあるためだ。 「いいえ。サナエちゃんが幸せそうで、僕も嬉しいよ」 「やーん、佑月ちゃんありがとう!! あ! そう言えば佑月ちゃん今日誕生日じゃなかった?」  サナエが思い出したと言った様子で手を叩くと、それに気付いたママは佑月らの会話に加わってきた。 「あら、ほんと? まぁ、何で早く言ってくれなかったのぉ」 「そう言えば今日誕生日でした。サナエちゃんに言われるまで忘れてましたよ」  佑月が苦笑いを浮かべて言うと、不意にサナエの横に座っている男が少し身を乗り出し、佑月へと視線を向けてきた。歳は三十代前半くらいか、何処か危うげな雰囲気のある男前だった。佑月は月に一度はここに訪れているが、だいたいの客は常連で見知った顔が多い。しかしこの男は初めて見るなと、佑月は軽く会釈だけをした。

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