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【佑月birthday SS ④】
ようやく腕を離された金森は、変色した手を振りながら須藤を睨み上げていた。
「須藤仁か……」
低く唸るように須藤の名を口にした金森は、次に佑月へと視線を移す。頭のてっぺんから足元まで視線を流され気分が悪い中で、佑月は更に警戒を強めた。
ただの一般人は須藤のフルネームなど知らない。知っている上で本人を前にして名を口にするということは、金森もそれなりの世界に身を置く人間だからだ。
「なるほど……あの須藤仁が夢中になっている男というのはユヅキのことだったわけだ」
納得。と小さな声で呟きながら金森はスツールからゆっくりと降りる。その一瞬、突然佑月は須藤に自身の背後へと回される。何だと思う暇もなく、レディらから小さな悲鳴が上がった。佑月は弾かれたように須藤へと視線を戻したとき、信じられない光景が目に飛び込んできた。
「前々から気に食わないとは思ってたが、こーんな綺麗なユヅキまで手に入れてるなんて、益々気に食わないね。この絶好の機会に死んでくれよ」
須藤の眉間に銃口が向いている。佑月の全身から一気に血の気が引く。
「か、金森さん、冗談はやめてちょうだい。こんな事をして知らないわよ」
ママは青い顔をしながらも毅然と言い放つ。しかし金森はそれを一蹴し鼻で笑う。
「佑月ちゃん、危ないからこっちへ」
サナエに後ろから両腕を掴まれ須藤から引き離されるが、佑月は離れたくないと首を振る。そしてその時に目に入った物を佑月は咄嗟に手を伸ばした。
「佑月ちゃん、ちょっ!?」
サナエの制止を振り切り、佑月は二人の間へと身を滑らせた。
「仁を撃ってみろ。その瞬間、お前の息の根も止めてやる」
佑月は怒りと焦燥で爆発しそうな中、ママが使用していたアイスピックを金森の喉元へと突き付けた。
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