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【佑月birthday SS ⑨】
「は、はい。何でしょうか」
須藤の低い声のせいで、佑月を含めレディらも息を詰める。須藤の目が怖い。怒るのなら、出来れば二人きりの時にして欲しいと頼んだところで須藤が聞いてくれるはずもなく。佑月は金森と同様ここから逃げ出したい思いでいっぱいであった。
「今朝、俺は二十時になったら事務所へ迎えに行くと言ったな?」
「……え? 言ったっけ?」
「お前……」
(あれ? なんかブリザードが見える。吹き荒れてる。ってボケてる場合じゃない!)
「いや……その、朝バタバタしてたし……」
「お前を送る車中で言ったんだがな」
「……」
(ヤバい……)
空気が更に重くなるが、誰も須藤へと口を挟めるわけがなく、皆は静観するしかない。
佑月はそっと腕時計を確認する。時刻は二十一時半。一時間半もこの男を待たせたことになる。
しかしまるっきり記憶がない。確かに車中で須藤が何か言っていたような気がしないでもない。きっと適当に相槌をうってしまっていたに違いない。
自分を軽視される事などきっと須藤の今までの人生ではほぼ無かったはずだ。そんな人間がいれば抹消されている。ましてや人の話を聞いていないなど言語道断。
佑月とて須藤を軽視したわけではない。出来るわけがない。それなのに何故自分は覚えていないのか。仕事の事で気になる事などなかった……。
と、ここで佑月はハッと須藤へと顔を上げる。
「仁、とりあえず店を出よう。ママ、サナエちゃん、みんな、今夜はお騒がせして申し訳ございませんでした」
佑月がママらに頭を深く下げると、みな慌てたように口々に頭を上げるよう言う。
「そんな佑月くんのせいじゃないわ」
「そうよぉ! 巻き込んだのはあたしたちの方なんだからぁ。その……ケンカしないで、仲良くしてね」
「うん、ありがとう」
サナエがちらちらと須藤を窺い見ながら佑月へとエールを送ってくれる。皆からの少し同情の混ざったエールを背中に、佑月は須藤の腕を取って外へと連れ出した。
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