52 / 74
【佑月が宣伝&ご連絡……をしてみたら】
「はぁ……」
佑月の薄桃色の唇からため息がふともれた。
「どうした?」
リビングのソファで佑月は須藤と肩を並べ、いま人気のアニメのDVDを観ている。花から観て欲しいと言われ、半ば強制的に渡されたものだ。
『鬼滅の剣』という鬼を退治する物語なのだが、結構泣ける場面があり、ティッシュ箱は必須だった。
もちろん観ているのは佑月だけ。須藤は隣に座ってはいるが、ずっとタブレット端末で仕事をしている。
「なんか、最近俺らのこと忘れられそうで寂しいなぁって思って。もしかしたらもう忘れられてるかも」
「……誰に忘れられると言うんだ? 別に俺がいればいいだろ?」
長い脚を組んで、優雅に座る男は相変わらずいい男だ。誰に忘れられようとも、須藤は痛くも痒くもないのだろうと、佑月はこっそりと肩を竦めた。
「仁が傍にいてくれるのは当然だとしても、それを読んでくれる人がいなかったら虚しいだろ?」
「……」
須藤は〝The意味不明〟を全面に出してくる。ついには端末を脇に置くと、須藤は佑月の不安を取り除こうと、抱きしめてきた。
「大丈夫か? 佑月」
「大丈夫。ただ那野が今書いてる『魔王は天使に跪く』が終わったら着手するって言ってたから、まだホッとしたかな」
「……」
「その物語のヒーローが悪魔で、アリソンって名前なんだけど、もうめちゃくちゃかっこいいんだよ。悪魔なのに紳士的で本当に優しくて、主人公の美風をめちゃくちゃ溺愛してて、凄く羨ましくなる。ネタバレは良くないからあまり言えないけど、俺もあの二人が大好きだからなぁ……本当、いつまでも幸せでいてほしいよ」
佑月はほっこりとした顔で、同意を求めて須藤を見た。瞬間、佑月は固まった。
「え……あれ……仁? 眉間のシワが……ヤバいって」
剣呑すぎる空気。もうこれは殺気だ。須藤から漂う物騒なオーラと、般若のような顔──無表情だけど般若!──。
「なんだ……そのアリソンとやらは」
「……い、いや……だから小説の話だし。って、痛い、腕が痛い」
腕に食い込む須藤の指が、佑月の苦痛の声でハッとしたように緩まった。
「悪い」
須藤は労るように佑月の腕をさすりながらも、機嫌は全く直っていない。
「いいよ、ちょっと大袈裟に言ってみただけだから。ただ俺は那野からの情報で『魔王は天使に跪く』は6月頃には完結させて、俺たちのsecondは8月頃に改訂版として加筆修正したものを公開したいっていうのを聞いたから伝えておこうと思って……まぁ、あくまでも予定らしいけど」
「……悪いが、さっきから佑月の言ってる事がさっぱり分からん。ただ、そのアリソンとやらに、佑月の関心を持っていかれることが不愉快だな。その身で久しぶりにじっくりと俺を味わわせてやろう」
革張りの高級ソファに佑月はいとも簡単に押し倒されてしまう。覆い被さってくる須藤の存在感と言ったら。佑月は怯えた子猫のように身を震わせる。
「な、なぁ仁、本当に小説の登場人物の話なんだって。だから、ちょっと冷静になろう?」
「無理だ。明日は仕事へ行けると思うな」
「!? や……んん……」
口答えは許さないと言わんばかりに、須藤は佑月の咥内を蹂躙した。
そして久しぶりに佑月は、これでもかと言うほどに散々と須藤にめちゃくちゃにされてしまったのは、言うまでもない……。(お約束♡)
翌朝。佑月は須藤の宣言通りにベッドから起き上がれなくて、とても困っていた。
「おはようございます皆様。非常にお見苦しい場面をお見せして申し訳ございません。とにかく……俺たちのこと、連載再開した際は、どうかよろしくお願いします……うっ……」
パタリと佑月はまた意識を失ってしまった──。
END
ともだちにシェアしよう!