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【佑月と須藤と真山と ③】
これは一体どういう状況なのか。佑月は半ばパニック状態だった。シーツに包まれているとはいえ、全裸だ。それを真山に抱きかかえられている。
真山は逆に、佑月の様子に何故かホッとした表情を見せている。そして抱きかかえられてる事によって、真山がどれだけ急いで来たのかが窺えた。心臓がとても速い鼓動を刻んでいる。呼吸もまだ整わず、胸が大きく上下していた。こんなに慌てて真山が主の部屋に侵入し、その恋人である佑月をまるで奪うような真似をする。これを理解しろと言われても無理な話だった。
須藤はと言えば、佑月が真山の腕の中にいても何ら反応は見せない。いつも少しの挨拶や会話で、佑月が笑顔を見せるだけで機嫌が悪くなると言うのに。今は佑月の事よりも、真山にシーツを奪われた事で全裸を晒してしまっていることに、かなり動揺している様子だ。
須藤が人様に裸を見られたくらいで、動揺しているのもおかしいが。
「真山さん、すみませんが下ろして頂きたいです」
「真山じゃない」
「は……」
真山が真山じゃないと口にする。佑月は暫くぽかんと口を開ける羽目になった。誰がどう見ても真山なのに、真山じゃないとは。
「え……っと、真山さんではない……ですか。でも、俺から見れば真山さんですが。確かにいつもと様子が違われるので、正直戸惑っていますが……」
すると真山は、佑月を大切に扱うようにゆっくりとフローリングへ下ろした。そして佑月の両腕を柔く掴み、目線を合わせるように少し屈む。こんなに近い真山は初めてで、佑月は少し緊張してしまっていた。
「いいか、佑月。今から言うことは信じられないかもしれないが、お前にだけは信じてもらわなければ話が進まなくなる」
「……っ」
真山の真剣な目と言葉。そこでふと腑に落ちるものがあった。
真山が話しているのに、なぜか酷く佑月の胸が高鳴る。佑月と名を呼ぶイントネーションが、聞き覚えがありすぎるせいだった。そもそも真山は、絶対に佑月と下の名前で呼ぶことはない。ましてや呼び捨てなど有り得ない。しかも先程から真山が佑月を呼び捨てにしていても、須藤はそれが当然といった態度でいる。
目が覚めた時から、須藤の様子は明らかにおかしかったではないか。佑月への接し方から、話し方まで。
ここまでの全てを繋げていくと、真山の言いたい事が理解し難いことでも、どうやら現実なのだと認めざるを得ない。佑月はゆっくりと口を開いた。
「……仁」
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