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【佑月と須藤と真山と ⑤】

 須藤の場合は妙な違和感で目が覚めた。何か窮屈さを感じて目を開けると、そこは須藤にとっては全くの未知の部屋だった。  数時間前までは佑月を抱いていたはずなのに、隣には恋人の姿もない。須藤はゆっくりと上体を起こし、部屋を見渡したが、やはり見覚えのないシンプルな部屋だった。  暫く考えていた須藤だったが、身体の違和感が拭えず、視線を下ろしてシーツを捲った。 「……俺の身体ではないな」  さすがに須藤でも、これには驚いていた。明らかに自分よりもスリムな身体。サイズ感の違いが、妙な違和感として須藤に伝えていたようだ。  須藤は冷静に、先ず自分の身体がどうなっているのかを確認しようと、鏡を探すためにベッドから下りた。しかし探すまでもなく、見覚えのある車のキーとスマートフォンが目に入り、須藤は瞬時に悟った。  そこから須藤の頭の回転は速くなる。何でもいい。とりあえず着るものをと、クローゼットからシャツとスラックスを引っ張り出し身に着けた。マイバッハのキーとスマートフォンを引ったくるように掴むと、すぐさま部屋を飛び出す。  須藤が居たのは真山の部屋だ。須藤は一度ども部屋までは入ったことがないが、ここから須藤のマンションまでは車で五分程で行ける。直ぐに向かえる場所だが、須藤には大きな懸念があった。  真山と入れ替わっているのなら、須藤の身体には真山がいることになる。だが須藤と真山の二人とは限らず、他にも複数が入れ替わっている可能性も捨てきれない。  どちらにせよ、須藤の身体には自分ではない誰かがいる。そして同じベッドには佑月がいる。真山であろうと誰であっても佑月の傍にいる事は許せない。ましてや佑月はまだ全裸のはずだ。  須藤はマイバッハに乗り込み、車を出しながら自分のスマートフォンに電話をかけた。 『……はい』  緊張している声が応答する。自分の声を受話口から聞く妙な感覚はあるが、今はそれどころではなく、相手が誰かを確認する必要があった。 「真山か? 俺だ」  真山であって欲しい。真山でも本音では不満はあるが、真山なら佑月に対して邪な気持ちにはならないだろう。それが他の人間ならばと考えるだけで、耐えられない憤怒が沸き起こる。 『そうです。やはりそういう事……なのですね』  真山だと分かり、須藤は半ばホッとするなか、真山も相当動揺している事が自分の声ながらも伝わった。  こんな状況で動揺しない人間はいないだろうが。 「あぁ、そのようだな。佑月はいるのか?」 『はい、隣に』 「分かっているとは思うが、佑月に触れたり、見たりするなよ」 『もちろんですっ!』  真山らしからぬ大きな声だったが、その気持ちは須藤によく伝わった。とは言っても、佑月の事が気にかかり、須藤はマイバッハのペダルを強く踏み込んだ。

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