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【佑月と須藤と真山と ⑥】

 到着したマンションの地下駐車場にマイバッハを適当に止めると、須藤はコンシェルジュからカードキーを受け取り──真山はもちろん顔パスだ──すぐさま最上階へと向かった。  こういう時、最上階ということにイライラさせられながらも、フロアに着くと須藤はすぐに部屋の扉を開け、靴を脱ぎ捨てた。大股でリビングを横切ると自室のドアを開け放つ。 「佑月!」  須藤はそこで目にしたものに、衝撃を受けた。佑月が須藤(真山)の腕に縋るように触れているからだ。  触れさせている真山を殴りたかったが、真山もおそらく佑月のことを思ってそうしているのだろう。だから落ち着けと、そう自身に言い聞かせながらも、佑月を奪うようにして抱き上げていた──。 「本当に、こんな事ってあるんだな……。二人が入れ替わってしまうなんて。これって二人が入れ替わったから俺も直ぐに信じられたけど、他の人なら演技でもしてるんじゃないのかって、直ぐには受け入れられなかっただろうし。でも、何でこんな事になったんだろう。昨日お互いに頭を強くぶつけ合ったとかない?」 「ぶつけ……? いや、無いな。そもそもなんだ、そのぶつけ合うと言うのは」  真山(須藤)が怪訝そうに眉根を寄せる。須藤がよくする仕草だと見つめながら、今ごろ真山が眼鏡をしていない事に佑月は気がついた。 「ぶつけ合うっていうのは、ドラマとか、そういうシチュエーションでよくあるパターンだから、もしかしてって思っただけ。それにしても仁は真山さんの身体で眼鏡してないけど、もしかして中が仁だと視力回復するとかなのか?」  佑月に指摘されて、真山(須藤)は眉間を指で揉んだ。 「そう言えば、見にくいな……」  佑月のことに囚われ過ぎて、真山(須藤)は見えにくいことも吹っ飛び車の運転までしてきた。 「仁……事故にあったらどうするつもりだよ。俺は逃げたり消えたりするわけじゃないんだから。だいたいそんなに慌てて来なくても良かったのに」 「お、お話し中申し訳ございません。眼鏡など必要な物を取って参ります」  不自然な程に須藤(真山)が話に割って入ってきた。佑月は驚きながらも、真山にも必要な物があることは理解しているため、須藤(真山)へと頷いた。 「そうですよね。お気をつけて。また戻られましたら一緒に朝食いかがですか?」 「ありがとうございます。しかし仕事の用意もございますので、またお時間になればボスのお迎えに上がります」 「そうですか……分かりました」  見た目が須藤のため、ついついと佑月の距離が近くなる。須藤(真山)が適切な距離を保とうとする度に、佑月が詰めて行ってしまう。そこで真山(須藤)が佑月の腰を抱き寄せようとした。しかし何故か真山(須藤)は急に思い留まり、伸ばした腕を戻して忌々しそうに舌打ちを鳴らしてきた。  

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