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【佑月と須藤と真山と ⑨】

 佑月は寝ぼけていた。大いに寝ぼけていた。  ふらふらとソファベッドに近づくと、佑月は須藤の身体を覆うシーツを捲った。珍しく須藤は裸ではなくて、光沢のある黒のガウンを着て寝ている。  なぜソファベッドで寝ているのか、なぜガウンを着ているのか、今の佑月はどうでも良かった。目の前には愛する須藤がいる。いつもの習慣で佑月は二人で寝るには少し狭いソファベッドへと入った。  須藤の胸に身を寄せて密着する。心地よい胸の鼓動が、直ぐに佑月を深い眠りへと(いざな)っていく。 「──さん……なる……さん」 「う~ん……なに」  せっかく気持ちよく寝入ったというのに、須藤が起こしてくる。しかも須藤の手が脇腹を撫でている気がして、佑月の身体には僅かな火がともった。 「待って……仁」  佑月は待つよう言いながらも、須藤へと身体をピッタリとくっつけ、ガウン越しの背中へと手を滑らせていく。筋肉質な広い背中に佑月はうっとりとしてしまう。 「いや、あの……これは」  須藤が藻掻くように動いているが、佑月の中では須藤も完全にスイッチが入り、仕掛けてくるのだと期待に満ちていた。 「仁……まだお尻痛いから、今夜は優しくしてくれよ」  佑月は須藤の上に乗り、須藤の端正な顔に手を添えるが、何故か須藤は驚愕したかのように瞠目し、固まってしまっている。  佑月はそんな須藤を見て首を傾げながらも、パジャマのボタンを外していく。 「そ、それはさすがにいけません! なる──」 「何だよ……。優しくはムリって?」  本当は佑月のお尻は完全回復していない。そのため、出来るならしたくない。でも須藤に求められると身体が疼き、心も須藤を深く求めてしまうのだ。  完全に寝惚けている佑月は、須藤の言動のおかしさにも全く気づくことなく、〝優しく〟出来ないのだと勝手に変換までしてしまっていた。 「そうではなくて、私は──」 「でも優しくしてくれないと、さすがにお尻が壊れるし。今夜はやっぱやめる」  ホッとしたような表情を見せる須藤にも気づかず、欠伸をしながら佑月は須藤の顔へと顔を近づけていく。 「おやすみ、仁」  毎夜恒例のおやすみのキスだ。佑月の意識がある夜は、お互いにキスを交わして眠りに就く。意識が飛んでしまった夜は、須藤が一方的にしているようだが、それはもちろん佑月は知らない。

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