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【佑月と須藤と真山と ⑩】
「佑月!」
名前を呼ばれたかと思えば、佑月は須藤から引き離される。しかも誰かに抱きかかえられていた。
パニックになりながら、佑月は須藤に助けを求めるが、当の須藤は素早くソファベッドから降りると、突然頭を下げるという珍事を見せた。
「申し訳ございません!」
その光景を目の当たりにし、佑月はここで完全に覚醒した。そして一気に冷や汗が背中に流れる。
(これはヤバイ……寝惚けてたとはいえ、完全に入れ替わってること忘れてた)
「お前は後だ」
真山(須藤)がドスを利かせ、須藤(真山)にそう言い放つ。真山のこんな声、未だかつて聞いた事がない。
(真山さんの声なのに、中身が仁だと迫力がヤバイ! そして俺もヤバイ! 死んだ)
佑月を横抱きにしたまま、真山(須藤)は自分の寝室から出る。何処へ行くのかと思ったら、佑月の部屋だった。最近ではあまり使用しなくなった。使用するのは、本当に疲れた時や、プチ喧嘩した時くらいだ。
須藤は佑月をベッドへ下ろす。放り投げられるかと身を固くしていたが、いつもの通りに丁寧な扱いに佑月は内心で首を傾げた。
「あ、あのさ仁……。あれは寝惚けてて、すっかり仁だと思ってたんだよ。というか外見は仁に間違いないから。俺が仁以外の人間に、自分から触れたいって絶対に思わない」
「分かってる」
押し殺した声。そして須藤は佑月に触れようと手を伸ばしたが、途中で思い留まった。自身の手を忌々しそうに見ている。
「さっきも本当は、この手でお前に触れたくなかった。中は俺だが身体は真山だ。触れるのが真山の手だと思うと腹立たしい。それにお前もこの身体で触れられるのは嫌だろ?」
佑月はそこでハッと言葉を失った。
須藤がどれだけ我慢していたのか。須藤の気持ちを思うと寝惚けていたとはいえ、軽率すぎた自分の所業が許せなかった。
「ごめんなさい……」
佑月はベッドの上で正座し、自身の誤ちに須藤へと頭を下げた。ネチネチと文句を言われるよりも、佑月にはかなり堪えた。
「もどかしいな。抱きしめたいのに。その唇に触れたいのに。抱き潰してやりたいのに。何も出来ない」
須藤が珍しく長い息を吐き出した。ちょっと怖い一言が入っていたが、概ね佑月も同じ気持ちだ。
抱きつきたいし、キスだってたくさんしたい。お尻が復活すれば抱いて欲しい──潰すのはやめて欲しい──。
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