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【佑月と須藤と真山と ⑫】
真山にとっては佑月のことも、主人同様に大切だという。それは佑月にも言える事だ。須藤のために身を粉にして働く真山や滝川、多くの部下は大切な人たちだ。だから早く元に戻って欲しい。ストレスを抱えずに伸び伸びと、仕事やプライベートを送れるようにして欲しい。
佑月は胸の裡で強く願った。
あれから一週間が過ぎ、そして二週間が過ぎた。一向に戻る気配がなく、日に日に三人には疲れが目に見えて分かるようになった。本当に戻れる日がくるのだろうかという不安がとにかく大きく、メンタル面で堪えていた。
佑月はベッドの上で天井をボーッと眺めていた。ここ二、三日は特に、佑月はしっかりと眠ることが出来ていない。どうしたら元に戻れるのか、そればっかり考えるせいで眠れないのだ。
二人が入れ替わったきっかけも分からない。朝目覚めると、お互いが既に入れ替わっていた状態だったためだ。ドラマや小説の中で、よくあるパターンも二人には当てはまらず、手の打ちようがなかった。
(このまま永遠に戻らなかったら……)
佑月は突然上体を起こし、ベッドから下りた。時刻は深夜の二時。
部屋を出ると、リビングから光がもれているのが見える。佑月はそっとリビングのドアを開け、中に入った。
真山の姿をした須藤が、琥珀色の液体が入ったロックグラスを傾けていた。眼鏡を外して、ワイシャツのボタンは第二ボタンまで外れている。気だるげな雰囲気はまさに須藤の姿だが、いつもビシッと決めている真山からは想像も出来ない姿だった。ある意味貴重な姿を見た気分になる。
(真山さんも美形だからな。なんかこれはこれで様になる)
「なんだ、眠れないのか?」
「あ……うん」
須藤の近くには極力近寄らない方がいいのだが、皆のメンタルケアが必要だと思って佑月はリビングに来たが……。
「真山さんはもう寝た?」
「あぁ、真山は直ぐに寝たな」
「そっか」
真山は寝不足でミスを犯すなど言語道断だと言い、寝れる時はしっかりと睡眠をとるようだ。
本当は真山と三人が良かったが、起こすわけにはいかず、佑月は須藤から少し離れた位置のソファに腰を下ろした。
「飲むか?」
「うん……って、えーー!!」
深夜のリビングに佑月の声が大きく響き渡る。出した後に慌てて自身の口を手で押さえたが。
須藤が飲んでるウイスキーが山崎50年だから驚きだ。いま普通に購入は難しく、オークションか、運が良ければネットで購入出来るが、取引価格がとんでもない金額になっている。数千万は見ておかないと手に入らない極上の代物だ。
「こ、こ、これ、ど、どうやって……手に入れ」
「落ち着け、佑月」
真山の顔で、須藤がたまらずと言った風に笑う。真山の笑顔も貴重だが、どうせなら須藤の顔で見たかったものだ。
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