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【佑月と須藤と真山と ⑬】
「でも、本当にこれどうやって手に入れたんだよ」
佑月は用意したロックグラスを両手で持つ。緊張と興奮で僅かに手が震えてしまっていた。
「これは知り合いから貰ったものだ」
「知り合い……ですか」
一体どんな知り合いだと言いたいところだが、須藤の顔の広さは、佑月の想像を遥かに超えるものだ。政財界に裏社会の者……それは外国にまで及ぶ。
(そう言えば泰然 さんは元気にしてるのかな……)
ふと、日本でblack birdとして暗躍している男を思い出し、少し気持ちが落ち着いた佑月は、グラスを持った両手を伸ばした。もう震えてはいない。
真山(須藤)の手が赤みの入った琥珀色の液体を、佑月のグラスへと注ぐ。
「ありがとう」
芳醇な香りが鼻腔を擽り、佑月はそっと一口舐めてみた。
「わぁ……やっぱ、凄い濃厚」
「そうだろ? ゆっくり味わえ」
佑月は頷いて、贅沢に二口目も口に含んだ。当然だが、こんなに深みのある酒は初めて口にした。感動を噛み締めながら、佑月はゆっくりと口を開く。
「なぁ仁。もう二週間以上経つだろ? 戻る方法も全く思い付かないし……その、大丈夫か?」
真山(須藤)はロックグラスをローテーブルに置くと、佑月の顔を真っ直ぐ見つめてきた。その表情は何か複雑なものが混じっており、佑月はどう捉えたらいいのか分からなかった。
「仕事の面では問題ないが、やはり真山には大きな負担が掛かってるな。唯一知ってる滝川も未だに混乱してる。早く解放させてやりたいが、こればっかりはな……俺でさえもどうにも出来ん」
部下の心配をしつつも、真山の目が飢餓を訴えるように佑月を見ている。真山の目を介して須藤が見てると思えば、佑月の身体が仄かに熱くなってくる。
「……」
視線がねっとりと絡み合う。お互いの目の奥には明らかな情欲の焔が灯っている。
唇、首筋、耳元に這う視線にさえ、感じてしまう。佑月は目を閉じて、須藤の視線を肌で感じた。
いま胸元を見ている。そう感じて佑月はそっとシルクのパジャマのボタンを外して、胸元を須藤の前に晒した。
決して目は開けずに。〝須藤〟が見てるという感覚を失わないようにだ。
「仁……」
胸に手を這わせ、薄い桃色の乳頭を指で摘んだ。そして先端を爪で引っ掻いてみる。しかし須藤の視線を感じる事が出来ても、どうしても自分の手では本物の手に劣ってしまう。あの大きな手で触れて欲しくなる。
佑月はゆっくりと目を開けて、真山(須藤)を見た。そして項垂れるようにして、佑月は須藤へと頭を下げた。
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