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【佑月と須藤と真山と ⑮】

 佑月のメンタル面も疲弊は相当だが、二人はそれ以上だ。だから自分の仕事の時は、しっかり集中しなければならない。メンバーに、そしてお客様に迷惑はかけられないからだ。  陸斗らも常に三人を気にかけ、解決法を模索してくれていた。しかし結局見つからずに今に至る。逆に解決法がある方が、どうかしているのかもしれない。こんな事、普通では考えられない現象だ。これが世間に知られたら、二人が研究対象になってしまう恐れもある。だから余計に入れ替わっている本人らは慎重さを求められ、心身への負荷が相当にかかってしまっているのだ。 (本当に……いつになったら戻るんだよ。戻れるのか? 頼む。誰でもいい。二人を戻してくれよ)  佑月は風呂から上がった後の自室で、神に祈るように両手を組んだ。  今夜で入れ替わってちょうど三週間目だ。佑月が目を閉じて必死に祈っていると、何か瞼の裏が赤く染まった。まるで強い光を当てられているような感覚だ。 「な、なんだ?」  佑月は怖々と目を開ける。 「……っ」  余りにも非現実的なものを目にし、佑月の思考が一瞬停止してしまう。 《佑月くん、こんばんは。君の願いは今夜で終了だよ。ご満足頂けたかな?》  目が慣れてくると、そこには眩い光を纏った天使のようなものがいた。真っ白な羽。美しい金の髪に、菫色の目。そしてその場で跪きたくなる程に美しい姿形。  佑月は暫く呆然として見惚れていた。 (ついに俺は天に召されたのか……)  召されるような事をした覚えがないのに、そう思ってしまう程にあまりにも事態が突飛過ぎた。 「俺の願いって……なに?」  どうせこれは夢なのだろうし、ならばと佑月は天使へと問い返した。 《願ったでしょ? 禁欲生活させたいって》 「は? え、ちょ……」  天使が何て言葉を口にするのだと佑月は唖然とする。夢の中であっても天使は天使でいて欲しかった。  その時、部屋の外から佑月を呼ぶ声がした。その声に佑月は瞬時にドアを開けに向かう。 「仁!? うそ、本当に!? 仁の声が……あぷッ」  ドアを開けた瞬間、大きな影が覆いかぶさり、佑月の身体はキツい締め付けに遭う。同時に鼻腔を擽る甘いムスクのような香りに、佑月の思考が蕩けそうになった。佑月の大好きな香りだ。  肺いっぱいに香りを吸い込んで堪能し、広い胸に頬を擦り寄せた。そして大きな背中へと手を伸ばし、しがみつく。 「夢じゃないよな? これが夢だったら……俺、もう立ち直れないぞ」

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