69 / 74

【佑月と須藤と真山と ⑰】

「……部屋で」  小さな声で言うと、須藤は直ぐに佑月の手首を掴み、部屋から連れ出した。 「あの、誤解がないように言っておくけど、俺はあの天使に願ったわけじゃないから……。ただあの夜は本当に辛かったから、心の中で思ったことで……」  まさか現実にこんな事が起きるなど、誰も考えつかない。天使がこの世に存在することも、俄に信じられないというのに。  佑月の弁明に、須藤は何も答えない。  せっかく元に戻ったというのに、悲し過ぎると佑月はこぼれそうになったため息を我慢した。佑月に原因があったことは確かなため、須藤に何か言う権利はないし、落ち込む権利もない。と、思っていても、やはり落ち込むものは落ち込む。 「ここで待ってろ。直ぐに戻る」  佑月を自室に連れ込むと、須藤はそう言って直ぐに部屋から出て行った。  一人部屋に残され、佑月は安心するよりも恐怖が募った。 「え……なに? まさか……何か拘束具とか用意してるとか?」  佑月は落ち着きなく広い部屋をウロウロとする。須藤と毎晩過ごす部屋なのに、今だけは監獄に思えてしまっていた。  直ぐに戻ると言ったわりには、もう十分ほど経っている。考えたくないが、本当に拘束具を用意するために調達しに行ったのではと、佑月は一人頬を引き攣らせながらドアを開けに向かった。  ドアノブを佑月が握ろうとするよりも前に、ドアが開く。 「あ……」 「待ってろと言っただろう。何処へ行こうとしていた」 「いや、ちょっと遅かったからどうしたのかなって……」  遅い原因はシャワーを浴びていたからだったのかと、佑月は内心ホッとした。拘束具を買いに行ってたのではと、疑っていたとは絶対に言えない。  須藤はバスローブの姿のままで、大きなベッドに腰を下ろした。 「おいで」  須藤が佑月を呼ぶ。しかし佑月は一瞬違和感を感じ、直ぐには動けなかった。 『来い』ではなくて『おいで』。しかも佑月を見つめる目がとても優しい。佑月の柳眉が徐々に寄っていく。  本当に中身は須藤なのか。戻ったと言ったが、本当は何処かのジェントルマンと入れ替わったのでは。 (いや、天使が嘘をつくとは思えないし、何より仁自身が戻ったって言った。それに……やっぱりこの空気(オーラ)は仁だし間違いない) 「どうした?」 「え、あ……ううん、なんでもない」  佑月は緊張しながらも、須藤の前に立った。すると須藤が待ち侘びたと言わんばかりに佑月の腰を抱き寄せ、腹に顔を埋めてきた。 「やっと……この腕でお前を抱きしめられる」  ついさっきも抱きしめ合ったが、こうして改めてゆっくりと触れられる事に、須藤の喜びが佑月にもよく伝わった。 「うん」  佑月も須藤の頭をそっと包むように抱きしめた。  それから須藤は、佑月がトロトロに蕩けてしまいそうな程に甘く抱いた。  佑月への渇望に激しく求める事が須藤の常だが、今夜は佑月が驚き戸惑うくらいに優しく触れてきた。触れる指、唇、舌、視線も佑月への愛で溢れている。  佑月の胸は新たなトキメキで、心の奥底まで須藤の愛で満たされていった。 「あぁ……じん……」 「佑月……」  繋がった二人の身体が溶け合う程に、緩やかな中でも熱い情熱がほとばしる。 「あ……あぁぁ……気持ち……い」 「もっと俺を感じろ」  佑月を第一に労りながらも緩急をつけて、佑月をよがらせる。肉体の激しさは無くても、お互いの心情が激しく燃え上がっていた。

ともだちにシェアしよう!