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《オメガバースな世界》②

「佑仁はいい子でいるよ」  佑月は我が子の頭を優しく撫でて、額にキスをする。すると、佑仁の顔はみるみる喜悦の表情が浮かんでいった。 『そうか。十分程で着く。もう少しの辛抱だ』 「うん……ありがとう。でもスピード出しすぎないで、安全にね」 『あぁ』  真山の運転する車だから、絶対安全だという思いはあるが、願わずにはいられない。温かな家族は、誰一人として欠けてはならないのだから。 「ママぁ……だいじょうぶなの? でも、ぼくがママをまもるから、あんしんちてね」 「ありがとう! 佑仁がいればママは安心だね」 「うん!」  小さな身体で精一杯抱きついてくる佑仁を、佑月も抱きしめ返して、そのまま抱き上げた。  とりあえず佑月は夫婦の主寝室へ向かう。 「ママ、おねんね?」 「うん……ちょっと、おねんねの準備を……」  佑月の身体がどんどん熱くなっていく。下腹部も熱くなって、しとどに濡れていくのが分かる。  佑月はΩ(オメガ)だ。この世は男女の性別の他に、α(アルファ)、β(ベータ)、Ω(オメガ)といった三つの性別がある。Ωはとても数が少なく、男女問わずに妊娠が可能で、発情期(ヒート)がある。ヒート中のオメガは強烈なフェロモンを撒き散らし、α、βを誘惑してしまうという難点があり、社会的には低く見られがちだった。しかし昨今では抑制剤の開発も進み、Ωも住み良い社会となり、上に立つ者も多くなってきた。  一方、夫である須藤仁はαだ。αはヒエラルキーでは最上位の存在だ。数はΩ同様少ないが、社会的地位は高く、頭脳は優秀、ルックスも魅力的であるのが特徴だ。そのαである仁だが、仁はもっと特別な存在であった。スーパーアルファという稀少な存在で、αを従わせる能力を持ち合わせている。  表社会、裏社会でも須藤仁は名を馳せ、とても畏れられている存在だ。  そんな仁と佑月が出逢ったのは、五年前。佑月が二十歳の時。大学生だった佑月はバイトへと向かう途中、突然ヒートになってしまい、数名のαに囲まれてしまったのだ。ビルの狭間に連れ込まれ、佑月は絶体絶命に陥った。だがそこは運が良く、仁の会社のビルだったのだ。  偶然会社へと戻ってきた仁がマイバッハから降りた時、本能的に抗えない程のフェロモンの香りを強く感じた。スーパーアルファは、オメガのフェロモンには耐性がある。だから一般のαのように我を忘れることはない。しかし今、仁はこの香りに抗うことが出来なかった。 「ボス……っ」 「お前は直ぐに中へ入っておけ」  真山もαだ。だからオメガのフェロモンに動揺していた。鼻と口を手で押さえて、恐縮したように仁に深く頭を下げ、真山はビル内へと入って行った。

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