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第4話

それから三年の年月が過ぎた。 十五の年になった、たけ丸は元服の儀を行い、名を幸竹とあらため、殿様から小姓の任を解かれ、一家臣となった。 それと同時に外出の許可が出て、自由に外を行き来することが許された。 三年もの間、殿様から寵愛を受け、殿様へ忠義を尽くしてきたが、一之介のことはひと時も忘れることは無かった。 殿様に頼んだ一之介の捜索は、返事をはぐらかされ続けて、ついには何も行なっていなかったことが分かった。 しかし殿を責めるわけにもいかず、自ら探しにいく決意を固める。 そして急く気持ちを抑えながら一人で、三年前、一之介と別れたあの場所まで…身なりを整え青い袴姿で、馬に乗り駆けて行く。 目的の場所、そこの脇に馬を置き歩いていく。 「……この場所だ」 橋の下… はやる気持ちを抑え、橋の下へ急ぐ。 「あ、……!!まだ、いる」 そこは、以前よりも人が暮らしているような形跡がしっかりとある、整えられた寝床、七輪や包丁、箸なども… まだ一之介のものと決まった訳ではないが、心臓の音が響いて聞こえるほど… 胸が高鳴った。 その瞬間… 「誰だッ!!」 低めの緊張した声が投げかけられる。 「……ッ」 その声に振り返って確かめるたけ丸。 「……!」 お互い瞳があい… 「ッ、一之介っ!」 そこにいたのは、あの日から逢いたくて仕方なかった…一之介の姿。 三年の間に、たけ丸も成長したが、さらに大きくたくましく成長した一之介がそこにいた。 長く伸びた髪を後ろにくくりあげ、身なりはボロきれのような茶色い短い着物に、履き古した草履。 けれどその顔立ちは、一之介そのものだ… 嬉しくて、たけ丸はその一之介の胸に縋り付いた… 「……っ」 しかし、一之介は… グイっと、両手でたけ丸の肩を押し、引き離す。 「え、一之介?」 「……このような場所に来ては、お召し物が汚れますよ」 一之介は、よそよそしく答え、たけ丸の綺麗な袴を手で払い、視線を下げる。 「ッ、な、に言って…一之介、僕だよ、たけ丸、ほら、分かるでしょ?」 綺麗に結われた髪を解き、昔を思い出してもらおうと必死になるが… 「…存じ上げません。早く城へお戻りください」 乱れた髪を隠すように、持っていた手ぬぐいをたけ丸に被せ、一之介はそのまま走って山の中へ消えて行く。 「一之介!待って、一之介ッ!!」 あまりに素早くて、呼び止めて見た後にはすでに一之介の姿はなかった。 「一之介…」 不意に涙がこみ上げてくる。 ずっと、ずっと…逢える日を心待ちにしていたのに… 一之介は… 『存じ上げません…』 「…っ」 どうして…? 本当に忘れて、しまったの? 「一之介ッ…ふッぅ、ぅ…」 泣き崩れるしかなかった…。

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