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6. 昔の話1

食事のメニューに、自分のお替りのお酒に。 液晶を打つ手を止めて、タケたちに目をやる。 「何か頼みたいものある?」 「あ、俺大ジョッキお替わり~」 タケが申請すると、次々とジョッキを空にした男たちが自分もと手を挙げる。 「お酒ばっかでいいの?なにかご飯物もお腹に入れないと」 注文を送信して、ジョッキの底に残る甲州ぶどうサワーを飲み干した。 「フブキ、母親みてー」 タケが笑いながら背中を叩いてくる。 「母親ってなぁ…。大体タケはピッチ早すぎ。それもう4杯目だろ」 「んじゃ、口うるさい彼女でもいいけど」 「なんで選択肢に男が無いんだよ」 「お前が可愛いのが悪ィんだろー?」 肩を抱き寄せられて、頭をぐりぐりに撫でられる。 コイツ、もうすっかり出来上がってやがる…。 「テメェ、あんま調子乗ってんと腹に風穴通して内臓引きずり出すぞ」 「ヤベェ、フブキ十代(ガキ)ん頃に戻ってやがる」 脅しが効かないことぐらい判ってて凄んだ訳だけど、そこまで大笑いされると立つ瀬ないと言うかなんだか恥ずかしくなると言うか……。 「もーっ!他のお客さんに迷惑になるから、タケはもうちょっと静かにしなさい!」 タケの職場の仲間にごめんね、と頭を下げると、彼らは苦笑してそっと僕から目を逸らした。 お前が怒らすから引かれたじゃないかー! はぁ───と息をついてジョッキを口に運ぶけれど、そう、これはさっき空にしたばかりだったんだ。 タケのビールも空だし、探偵のは甘くないし…。 そこへ、店員さんがアルコールを運んできた。 回収するジョッキを集めて渡していると、プッと吹き出す声が聞こえた。 タケが口元に手を当ててニヤニヤしている。 どうせまた、親戚の世話焼きおばさんみたい、などと思っているんだろう。 「それなに?」 タケが僕の口にしたジョッキを指さす。 「ん?白桃のサワー」 「かっわい~」 「…悪かったな」 プンと顔を背けると、探偵と目が合った。視線を交わすなり、顔を逸らされる。 不機嫌? 「どした?」 人見知り、と言うんだろうか。勿論物怖じしたりはしないけれど、普段から余り人と仲良くしようとしない奴だ。 こんなに初めての人だらけの中、疲れてしまったのかもしれない。 丁度運ばれてきた生ハムサラダを取り分けてやると、溜め息を一つ、それに箸を付ける。 溜め息一つで幸せ一つ逃げてっちゃうんだぞ、雪光。 手を伸ばして頭を撫でてやると、こちらに顔を向け、さらに溜め息をもう一つ付いた。

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