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14. 取調室初体験記念1
少しの休憩を与えられていた。
とは言っても、小さな部屋の中には一人の刑事が残っているし、ドラマで見る様にカツ丼ひとつ差し入れられたりしない。
いや、いまどきカツ丼を差し入れるドラマも無いか。
お腹減ったな…。
もう朝である。
青山、心配してるだろうな。1人で出るなって言われてたのに…。
心配どころか、怒ってるんじゃないだろうか。
今あの男に怒りの形相で睨まれたら、一瞬で号泣する自信がある。
疲れたし、眠いし、お腹減った……。
せめて水くらいもらえないかな。
「あの…」
おずおずと声をかけると、腕を組んで椅子に座っていた刑事が顔を上げた。
ビクッと肩が震えてしまう。
30歳くらいの刑事さん。短髪で、強面で、ちょっと怖い。
「なんだ?」
「あの…、お水、もらえないかなって思って…」
「水?」
「っ!…やっぱり…いいです」
甲高いのか低いのか分かり辛い声。
ただ、ドスが利いてるって事だけは、耳だけじゃなく本能で感じ取れる。
喉、乾いた……。これって、人権無視なんじゃないのかな。
僕が悪いのかな…?
下を向くと、ポタリと涙が零れた。
水分!勿体ない勿体ない!
体内の水分がこれ以上減らないよう、瞼をぎゅっと閉じる。
……探偵の言うこと聞かなかったから、罰が当たったのかな…?
「あーっ」
急に大きな声を出されて、体が跳ね上がった。
ドアの手前に座っていた刑事が、こちらへ向かってくる。
立ち上がるとガタイの良さが際立って、更に恐ろしい。
刑事が手を振り上げる。
───叩かれる!!
ぎゅっと目を瞑る。
「今は無理だが、交代の時に持ってきてやるよ」
頭にぽすんと、……掌の感触?
そっと瞼を上げる。
「だから泣くな、坊主」
探偵よりも、高虎よりも、大きなごつい手で、ごすごすと頭を撫でられた。
鬼のような形相と思っていたその刑事は、眉尻を下げて少し情けない顔で僕を見ていた。
「てーかお前さん、…こんな言い方はあれだが、本当に刺したのか?」
「えっ…?」
「刑事 の勘っつーと笑われちまうんだけどな、どうにもお前さんがやったとは思えねーんだよ」
頭をガシガシと掻いて、手繰り寄せた椅子にドカンと座る。
その乱暴な動作も、一瞬前より怖いと感じなくなっていた。
「けどよ、目撃証言に加え、ナイフの柄にもテメェの指紋が付いてるときた」
ナイフに指紋……?そんなの、付いてて当たり前だ。
「僕、刺さってたナイフ、抜こうとしたから…」
「あぁ?」
刑事が机に頬杖をついて顔を覗き込む。
「でも、ナイフが栓になってて、抜いたら血がドバーッて出ちゃうから抜かない方が良いって聞いたことがあって、止血とかどうしようって思ってたら、女の人が来て」
「どんな女だ?」
「えっと…、良く見てないけど、僕より年上だと思う。救急車呼んでもらおうとしたら、叫ばれちゃって…人殺しーって」
「ふーん…」
唸るように頷いて、刑事は沈黙した。
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