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16. 取調室初体験記念3
次はどんな人から取り調べを受けるんだろう。
ちゃんと話を聞いてくれる、巌本さんみたいな人だといいけど。
そんなことを思っていたから、
「もう少しで迎えが来て帰れるから」
「えっ…?」
一瞬意味が分からなくて、思考が固まった。
「別の目撃証言が出てね。あの路地から逃げるように出てきた男がいたって。20代後半から30代前半の」
「え……僕も、20代後半…」
「風吹ちゃんなら10代後半から20代前半がいいとこだろ。それに、その男の目撃は風吹ちゃんがあそこを通った5分ほど前のことだ。ナイフの柄からも手袋痕が出てる。風吹ちゃんの指紋の下からな」
「じゃあ、迎え…探偵が…?」
「いや、雪ちゃんより身元がしっかりしてるからね。署長に足止め食らってて、もう来ると思うが」
雪ちゃんには俺から連絡入れといたから、と正さんから聞いている途中で、扉がノックされた。
巌本さんがドアを開く───と、
「風吹さん!」
そのドアを押し開けるようにして、葵君が飛び込んできた。
思わず立ち上がる。
「葵君…っ」
飛びつこうとして、…躊躇する。
「大丈夫ですよ」
葵君が手を広げる。
遠慮なく、思い切り飛びついた。
葵君は存外逞しくて、少し揺れただけでしっかり受け止めてくれた。
「もう大丈夫です。私が送っていきますから」
優しい声。ホッとする。
「うん」
急に眠気に襲われて、そのまま葵君に凭れた。
葵君は左手一本で僕の体を支えると、巌本さんに向けて敬礼する。
「ご苦労様です。警視庁刑事部捜査一課、名波警視です」
「桜田門の…。そりゃ、ご苦労さんです。刑事課巌本巡査部長です」
「彼の身元は私が保証します。署長にも報告済みですので」
「ああ、それじゃあ、よろしく頼んます」
葵君に名前を呼ばれて、背中をポンポン撫でられた。
「歩けますか?無理そうでしたら抱いていきますが」
「だいじょうぶ。歩けるよ」
首をプルプル振って、眠気を吹き飛ばす。
その頭を、上からポンと押さえつけられた。見上げると、もう一度ポンとされる。
撫でられてるの…かな?
「怖い思いさせて、悪かったな。…気ィ付けて帰れよ」
確かに、初めは怖くて怯えちゃったけど…。
見上げて首を横に振る。
「巌本さん、ありがとう。お水、ご馳走様でした」
「いや…」
「お仕事頑張ってください」
「ああ。…坊主も頑張れや」
坊主…じゃないんだけどな。
だけど、はい!と大きく返事して、僕たちは警察署を後にした。
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