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20. お帰り4

探偵は警視を待たせているリビングの扉を開け、何か飲むかと訊いた。 「いえ、結構です。話が終わり次第お暇しますから」 互いに互いを2人きりで居たくない人物と認識している。 探偵は挽いた豆と水を自分の分量だけコーヒーマシンにセットすると、警視の正面に腰を下ろした。 「呉島さんから聞いた。朝一から聞き込みに走ってくれたようで、感謝する」 警視は少し眉根を寄せると、小さくいいえと答える。 「あの人の為になるなら、私はどんな労力も惜しみません。そもそも貴方に感謝される謂われはない筈」 「いや、あれはうちの者だからね。同居人がご迷惑をお掛けした」 「そうですか。それでしたら貴方にお願いしたい」 警視は眼光を鋭くし、真正面から探偵を見据えた。 「今回の釈放は、私が保護観察するという名目で成ったものです。風吹さんは未だ容疑者のままだ」 「成る程。相変わらず警察の捜査はずさんなものだ」 「無実だという絶対的な証拠が出れば良いのですが、それを集めることは有罪の証拠を見つけるより難題だ」 「私にそれを集めろと?」 「いえ、それは警察の仕事です。ですから、真犯人が見つかるまで、貴方にして欲しいことがある」 そして警視は、探偵に四つの条件を突きつけた。 一つ、自分の代わりに風吹から目を離さないこと。出かける用があれば、連れて行くか代理の者を立て見張らせておくように。 二つ、居場所をはっきりとさせておくこと。 三つ、事件は単発とは限らない。なるべく人目に触れるようにし、アリバイを主張できるようにしておくこと。 四つ、風吹を危険な目に遭わせないように守ること。 「くれぐれもあの人を、宜しくお願いします」 深々と頭を下げた警視に、探偵は「君に言われるまでもない」と憎まれ口を叩き、そしてテーブルに置いてあった封書を読むようにと渡した。 「これは…!」 「必要なら事務所でコピーを取っていき給え」 「では、お借りします」 それは、風吹にストーカー行為を働いていた男の個人データの報告書だった。 「昨日はそれを取りに行っていたのだよ。私が行かねば渡さぬと駄々を捏ねられたものだから」 傍を離れるのではなかった───と、探偵は一人ごちた。

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