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25. ***
男は走っていた。脇目も振らずに走っていた。
彼女に命令された通り、あの男は刺した。
どうせ出来ないだろうと思っていただろう。
だが俺はやってやった。俺はやれば出来る男なんだ。
あの人は、褒めてくれるだろうか。
あの笑顔で、頭がいっぱいになる。
しかしまだ会えない。今の俺の手は汚れている。こんな手で、美しいあの人の傍には行けない。
───一週間だ。
一週間後、あの人に会いに行こう。
あの人はまた、笑ってくれるだろうか。
* * * * *
ここは、何処だ───?
寒い…体が、冷たくなっていく……。
何があった?背中に、なにか……
……ああ…刺されたのか…。
俺も、刺されたのか…。
最後に、あの人に会いたい。あの笑顔に、会いたい。
もっと、その声を聴かせて…もっと、傍に……
手紙…読…ん………
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