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26. 無事でよかった1
朝だ───と思った。
うっすらと瞼を開く。
左手が温かい。
ベッドの端に腰を下ろして、探偵がデジタルブックを読んでいた。
朝じゃない、か。
昼前に帰ってきて、そのまま寝てしまったんだ。
外はまだ明るい。何時だろう?
3時間くらいは寝た?
探偵の手が、僕の左手を包み込んでいる。
ずっと、握っていたのかな。
本当に、心配かけちゃったんだな。
「雪光…おはよう」
探偵が目を上げて、タブレットPCを脇に置いた。
「もう大丈夫なのか?まだ2時だから、暫く寝ていても構わないが」
「大丈夫だよ。ありがとう」
優しい、な…。
起きたらもっと、烈火のごとく怒り狂ってると思っていたのに。
「雪光、ごめんね。僕…」
「いや。君を置いて出かけた私にも非がある」
「怒ってないの?」
「どうだろうな」
心配をかけたばかりではない。
服を着たままだ。
シャワーも浴びていない。
出かけて帰ってきた、しかも夜通し起き続けた汚れた体で、ベッドを汚してしまった。
いつもなら、もっと厳しく当たられているところなのに…。
「君の寝顔を見ていたら、毒気など抜かれてしまった」
フッと目を細めると、覆いかぶさってくる。
「僕お風呂入れてないから、くっついたら汚いぞ」
体を離そうとすると、ますます強く抱きつかれる。
「…君が無事で…よかった……」
水気を含んだ声。
どうした?泣けてくるほど心配してくれたのか?
「うん……」
背中を、母親が子供にするように、ポン──ポン──とたたいてやる。
僕はここにいるから、安心しなさい。
「雪光は、夜はちゃんと寝たのか?」
「…いや」
「だったら、僕と一緒に寝てればよかったのに」
「…起きていたかったのだよ」
「そっか…。じゃあ、今日は早めに休もうな」
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