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31. 劣等生のトラウマ1
階段を下りていると、2階の探偵事務所から楽しそうな話し声が聞こえてきた。
探偵が眉をしかめた。
「誰か来てるのかな?」
「どうせ詩子の友人だろう」
そのまま素通りで下りようとするから、腕を掴んで止める。
「でも、男の人の声がするよ。気にならないの?」
「私に気にする必要が?」
「お兄ちゃんだろ。僕だったら、妹の部屋に男が来てたら気になるもん」
「君が?」
「そうだよ、僕がだよ!」
君が妹の心配ができるほどしっかりしているとでも?と聞こえて、つい声が大きくなる。
「とにかく、詩子ちゃんにも心配掛けちゃったと思うから、出かける前に顔見せていかないと」
「一度部屋には声をかけたのだ。こんな所で遊んでいて部屋を留守にしたアレが悪い」
聞かん坊の探偵は放っておいて、事務所のドアをノックして開けた。
中にいた人たちの目が全て、こちらに集中する。
葵君が立ち上がる。
詩子ちゃんが走り寄る。
僕がスプーンでアイスを食べている。
ん………?あれ……?
「ふーくん!」
僕が、アイスのカップを置いて立ち上がった。
いや、僕…じゃない。
「伊吹だ…」
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