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32. 劣等生のトラウマ2

「ふーくん!寝不足とか朝帰りとかどう言うこと!?」 うわー。久し振りに見たけど、ほんと伊吹って僕と顔似てるんだなぁ。 あ、でも人前で僕のことを「ふーくん」って呼ぶなんて、珍しい。 いつもはもっとインテリぶって、「風吹」とか「兄さん」って呼ぶくせに。 「僕、ずっと待ってたんだからね!」 ボーッと考えていたところに抱きつかれた衝撃で、ハッと思い出した。 伊吹からお昼を一緒に食べようって、連絡がきてたんだった。 その約束が、今日だった。 待ち合わせが11時で早めにランチを食べて、その後カラオケに行って、スイーツ食べて、服を見に…って、女の子みたいな予定だなと一人吹き出したことを思い出す。 「ごめん、伊吹!僕、ちょっと警───」 …いや、マズい。伊吹に『警察』なんて言ったら、ややこしいことになる。 「外せない仕事があって」 「仕事~!?ビルの管理人のふーくんに?」 お前の疑問はごもっともで。 「風吹さんは、自治会の会合に出席なさっていたんですよ。その後会長以下年配者が飲み始めてしまったので、抜けられなくなってしまったんです」 葵君が素早く疑われようもない言い訳を挟み込んでくれる。 「うー…、上司の命令なら仕方ないか」 葵君、重ね重ね有り難う! 「今3人でアイスを頂いておりましたの。風吹様もいかがです?」 詩子ちゃんがさりげなく寄り、耳元で、ご無事で安心いたしましたと囁いた。 心配掛けてごめんね、と小さく伝えて、 「アイス?いーな、僕も食べたい!」 わざと大きく答える。 すると、アイスを取りに行こうとした詩子ちゃんを探偵が肩を掴んで止めた。 「兄様には差し上げませんわ。私のお小遣いで買ったものですもの」 「そうではない。先程から風吹は冷たいものを取りすぎだ。この上アイスまで食べたら腹を壊してしまう」 「あら、それはいけませんわ」 途端、詩子ちゃんは給湯室へ向けていた体を此方へ振り返らせた。 探偵のやつめ…。 睨み上げても当然、対探偵には何の効力も発さない。 「風吹さん、一口ぐらいなら食べられますか?」 葵君がアイスを掬って差し出してくれる。 あーん、と口を開けると、冷たいアイスが口の中に入ってきた。 美味しい。レモンとヨーグルトの味がする。 葵君、重ね重ね重ねありがとう! 「あーっ!欲しいなら僕のを半分こしてあげるから、他の子から貰っちゃダメっていつも言ってるでしょ!」 「いや、でもせっかく葵君が…」 「誰からでも簡単に餌付けされないの!」 「えっ、餌付け!?」 「まったく…弟君の言うとおりだ。はしたない」 「そうだよ!みっともない」 「意地汚い」 「嘆かわしい」 って、2人掛かりでそこまで言うか、お前ら…。 「名波君も、ふーくんに分けてあげなくていいんだからね。甘やかしたら図に乗るから」 「んだよ。図に乗ったことなんかねーだろ、伊吹のお節介。ガミガミじじい」 「あーっ!ふーくんまた悪い言葉使って!!」 「大体、葵君は俺のダチなんだから、勝手にチョッカイ出してんじゃねーよ」 「もーっ、なんでそう言う悪いこと言うの!ふーくん、またグレちゃったの!?」 ったく、めんどくせー奴だよな、昔から。 俺のが兄だってのに、テメェのが成績がいい、品行方正ってだけで上から物言いやがって…。 久し振りに会ったら仲良くできるかもって、約束OKしたのに。

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