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34. 劣等生のトラウマ4
エントランスを出て、……どっちでもいい。いつもは行かない右側へ折れる。
どうせ行き場なんて無いんだ。受け入れてくれる場所なんて…。
拗ねてるだけかな。自分が努力して変わらなくちゃなのかな。
でも今更優等生なんて、どうやったらなれるのか、見当もつかないや。
それに、どんなに演じて見せたって、年季の入った筋金入りの優等生になんか適いっこない。
褒められるのは、愛されるのはいつもあいつで、俺はそれを指を咥えて見ていることしか出来なくて……。
「………クソッ」
ストーカーの人だって、俺1人で歩いてんのに何も仕掛けて来ねーじゃん。
もう厭きた?
そもそもストーカーじゃなかったのかもしれないし。
そうだよ、あの人男だったじゃん。男が男のストーカーなんてする筈無いじゃん。
探偵が勝手に勘違いして騒いでただけで。
「雪光のばか…」
警察にも言っちゃったじゃん。とんだ勘違いヤローだよ。恥ずかしい。
しばらく歩いて、そろそろ知らない場所に来ているだろうと辺りを見渡す。
まだ、見覚えのある道だ。
迷子になって帰れなくなるくらい、知らないところに行きたいのに。
咄嗟に出てきたから財布も持ってない。ご飯の買い出し用の財布も、探偵に預けたままだ。
スマホは───何処に置いたっけ?
警察で返してもらった後、ポケットに入れて、帰ってから……シャワー浴びて着替えたから…。
脱衣所に落ちているかもしれない。寝ている間にベッドに落としたかもしれない。
どちらにせよ、今着ている服には入っていない。
自分の脚で距離を稼ぐしかない。歩かなきゃ。
突き動かされるように脚を動かす。
何処を歩いているのか、周りの景色がぼやけて見えない。
すれ違う人が、どこか違う世界を歩いているように感じる。
車の音が遠い。
どうして、僕は歩いてるんだろう。
蝉の声が、やけに五月蝿い。耳鳴りのように頭に響く。
道が突き当たり、顔を上げる。
そこには、見知った白い建物が立ちふさがっていた。
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