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38. 好きなんだ4

「友達も、可愛いって褒めてくれた大人たちも、みんな…伊吹の方が、出来が良いから……。みんな…会わないで欲しかったのに、雪光も、葵君も……」 途切れ途切れの言葉は小さくて、くぐもっていて、聞き取りづらい。 言葉の選び方も上手くはなくて、分かり辛い。 けれど、その声音が、言葉の合間のしゃくり上げる声が、悲しさを強く伝えくる。 「探偵様や、葵様のお気持ちは存じ上げません」 反対に、春子の声はしっかりとしていて、強い意志を感じ取れた。 「ですが、あの時私を命懸けで守ってくださったのは、風吹様です。他の誰でもない、風吹様なのです」 成長なされたと、中川は 主の成長を素直に感じた。 風吹の行動と探偵の言葉を受け入れることにより、お嬢様は一回りも二回りも大きくなっている。 だと言うのに、彼女をそうさせた本人はどうしたというのだ。 まるで、拗ねて 駄々を捏ねているだけの子供ではないか。 さらには10も20も下の本物の子供に心配をかけて。 「風吹、立ちなさい」 ぎゅっと膝を抱え込み首を振る。 中川は眉根を寄せると、風吹の両脇に手を差し込み、その体を宙へ掲げた。 「高…虎っ!?」 驚いた瞳が漸く相手の顔を映す。 「風吹、好きだよ」 「なっ…!?」 風吹の顔が、一瞬で真っ赤に染まりあがった。 「なんだよそれっ!?そんなの…告白みたいじゃん…っ!」 確かに、そう聞こえたかもしれない。 主は後で同趣味のお嬢様方に、嬉々としてこの様子を語ることだろう。反対に、図々しいと罵られるかもしれない。 しかし、それも今はどうでもいい。 確かに彼がこちらを見たこと、今はそれが重要だ。 「あの時俺を笑わせて、友達だと言ってくれた。親友になれるかもと」 伊吹などと言う、同じ顔の知らない男ではない。 僕とお友達から始めてください、と手を差し出したのは、紛れもなく風吹なのだ。 「風吹だから、好きになった。顔が似ていようが、弟の方が出来が良かろうが、風吹でなければ俺には意味がない。貴方だから、好きなんだ」

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