107 / 211
39. 主従喧嘩1
随分と高い位置から高虎を見下ろしている。
顔がやたらと熱い。絶対、真っ赤になってる。
恥ずかしくて、両手で顔を隠した。
「…なんでそういうこと言うんだよぉ…、恥ずかしいだろ…」
まるで愛の告白でも受けてるみたいで、どうすればいいのか分からなくなる。
心臓がバクバク言ってる。
高虎が、俺とか言ってる。
「風吹がくだらないことを言うからだ」
なんで勝ち誇った顔してんだよ…。
「何故男の俺が、同じ男の親友を顔で選ばなければならないんだ。同じ顔なら出来のいい方がいい?」
「…だって、高虎だって…優等生だろ…」
「馬鹿な子ほど可愛い、と言う言葉を知らないのか?」
「馬鹿って…!」
見下ろしてる筈なのに、どうしてだろう。見下されてるみたいな視線。
ふふん、と高虎は不敵に鼻で笑った。
いつもの上品な執事じゃないみたいだ。
「中川、今の言葉は聞き捨てなりません」
「春子さん…!」
そうだよね、そうですよね春子さん!
立ち上がった春子さんに、救いを求める視線を送る。
高虎に僕のこと、馬鹿じゃないって言ってやって下さい!さあ!
「顔で人を選ばないのは、なにも同性だけではありません」
顔!?って…そっち!?
「何を仰いますか、春子様。ご学友のお嬢様方は皆さま、連れ立って歩く執事を、外見で階級を付けては競われていたではありませんか」
高虎!?なにお前急に春子さんに噛みついてんの!?
「学生の戯れ如き、いつまで引きずっているのです。自分の評価が高かったことがそんなに嬉しかったのですか?あれは大学卒業間もない若い殿方の執事が珍しかっただけです。それでなければどなたが中川など」
えっ、なにこの2人!?ほんとはこんなに仲悪いの!?
それともこれって、痴話喧嘩!?
もしかして、高虎が僕のことを好きだとか言ったから?
「あのっ、2人とも!喧嘩はやめ───」
「元はと言えば…」
「風吹様がおかしなことを言い出されたからです!」
喧嘩の仲裁をしようとしただけなのに、2人は剥いていた牙を一斉にこちらに向けた。
「私が惹かれたのは、風吹様の内面です。見目も可愛らしくていらっしゃいますが、そちらは二の次。自らの身も顧みず私を守ってくださったのは、私を死んではならないと叱咤してくださったのは、他ならぬ風吹様なのです。同じ顔をなさっていようと、弟様の方が優秀だろうと、関係ありません。風吹様だからお慕いしているのです!」
「え、だって、…伊吹は東大卒で、財務省官僚で…」
「それは…」
「…凄いことですが…」
2人が顔を見合わせたのは一瞬のこと。
「「ですが関係ありません!」」
流石お嬢様と執事、息ピッタリだ───と思わずにはいられないコンビネーション、ステレオで怒鳴られた。
ともだちにシェアしよう!