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39. 主従喧嘩1

随分と高い位置から高虎を見下ろしている。 顔がやたらと熱い。絶対、真っ赤になってる。 恥ずかしくて、両手で顔を隠した。 「…なんでそういうこと言うんだよぉ…、恥ずかしいだろ…」 まるで愛の告白でも受けてるみたいで、どうすればいいのか分からなくなる。 心臓がバクバク言ってる。 高虎が、俺とか言ってる。 「風吹がくだらないことを言うからだ」 なんで勝ち誇った顔してんだよ…。 「何故男の俺が、同じ男の親友を顔で選ばなければならないんだ。同じ顔なら出来のいい方がいい?」 「…だって、高虎だって…優等生だろ…」 「馬鹿な子ほど可愛い、と言う言葉を知らないのか?」 「馬鹿って…!」 見下ろしてる筈なのに、どうしてだろう。見下されてるみたいな視線。 ふふん、と高虎は不敵に鼻で笑った。 いつもの上品な執事じゃないみたいだ。 「中川、今の言葉は聞き捨てなりません」 「春子さん…!」 そうだよね、そうですよね春子さん! 立ち上がった春子さんに、救いを求める視線を送る。 高虎に僕のこと、馬鹿じゃないって言ってやって下さい!さあ! 「顔で人を選ばないのは、なにも同性だけではありません」 顔!?って…そっち!? 「何を仰いますか、春子様。ご学友のお嬢様方は皆さま、連れ立って歩く執事を、外見で階級を付けては競われていたではありませんか」 高虎!?なにお前急に春子さんに噛みついてんの!? 「学生の戯れ如き、いつまで引きずっているのです。自分の評価が高かったことがそんなに嬉しかったのですか?あれは大学卒業間もない若い殿方の執事が珍しかっただけです。それでなければどなたが中川など」 えっ、なにこの2人!?ほんとはこんなに仲悪いの!? それともこれって、痴話喧嘩!? もしかして、高虎が僕のことを好きだとか言ったから? 「あのっ、2人とも!喧嘩はやめ───」 「元はと言えば…」 「風吹様がおかしなことを言い出されたからです!」 喧嘩の仲裁をしようとしただけなのに、2人は剥いていた牙を一斉にこちらに向けた。 「私が惹かれたのは、風吹様の内面です。見目も可愛らしくていらっしゃいますが、そちらは二の次。自らの身も顧みず私を守ってくださったのは、私を死んではならないと叱咤してくださったのは、他ならぬ風吹様なのです。同じ顔をなさっていようと、弟様の方が優秀だろうと、関係ありません。風吹様だからお慕いしているのです!」 「え、だって、…伊吹は東大卒で、財務省官僚で…」 「それは…」 「…凄いことですが…」 2人が顔を見合わせたのは一瞬のこと。 「「ですが関係ありません!」」 流石お嬢様と執事、息ピッタリだ───と思わずにはいられないコンビネーション、ステレオで怒鳴られた。

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