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42. 今日からオレの嫁2
でも、そうしたら何処へ行こう?
実家に帰る?…いや、実家には伊吹がいる。今、伊吹には会いたくない。
タケに連絡して、暫く泊めてもらおうか。タケならきっと、…でも、タケに彼女が居たらどうしよう。僕は邪魔になる。
何処へ行っても───僕は、邪魔になる。
「じゃあふぶき、今日からいっしょにフロ入ろうぜ」
「え…?…風呂??」
考え込んでいるうちに、竜弥の話は進んでいたのだろうか。
「んで、ベッドはオレんとこ入れてやる。ふぶきはちっちゃいから いっしょに寝られるだろ」
「誰がちっちゃい…」
じゃない。そこじゃない、問題は。
「竜弥。それって、ここに泊まってけってこと?」
「おう!今日からふぶきはオレの嫁だ」
「嫁っ!?だあっ!?」
「そーだぜ。嫁になればここにいっしょに住めるだろ」
絶句───した。
どうなってるんだ、今の小学校の教育は…。
いや、ここの、菜の花園の教育…か?
「春…子さん…?」
「小学生まで魅了してしまわれるとは…。流石、風吹様です」
変なとこで感心してないで!!
高虎……は、余りの申し出に固まっちゃってる。
やっぱり、自分で解決する他に方法はないのか。
「…あのな、竜弥。僕、男だぞ」
「知ってる。ふぶきみたいのは、ソウウケダンシって言うんだろ」
「な…なんだって?なに男子?」
「春子様…」
「わっ、私ではありません!断じて違います!」
背後では小声で春子さんと高虎が揉めている。言葉を理解できていないのは僕だけらしい。
「あの、それってクラスの女子が言ってる──んぐっ…!?」
なにか言い掛けた潤也の口を高虎が慌てて塞いだ。
「高虎…?」
不審なものに向ける視線を無意識に浴びせてしまったのだろう。高虎はわざとらしく咳込むと、そっと顔を背けた。
絶対に僕に何かを隠している。怪しい。
「だからさ、ふぶき帰りたくないなら、オレの嫁になってここに住めばいいだろ」
そうそう。今は高虎より、こっちの日本の最新教育について、だ。
「気持ちは有り難いけど、竜弥。僕は此処に住めないよ。大人だから」
ここは児童養護施設。18歳、高校を卒業するまでしか住むことができないのだと前に聞いたことがある。
高校を卒業したら、出て行かなければならないのだと。
僕は28歳。10もオーバーしている上、この子たちとは違い、帰る家がある。仕事もある。
帰りたくないと言うのは、ただの………
そうだ。
ただの、我が侭だ。
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