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44. ふぅきといっしょ1
「風吹…」
呼ばれて振り返ると、高虎が助けを求めて視線を送ってきた。
どうやら、小さな女の子たちに自分たちも一緒にお風呂に入りたいとせがまれているようだ。
「皆さんは女の子ですので、私は一緒に入れませんよ」
断ってはいるようだが、彼女たちは高虎そっちのけで誰が一緒に入るかで争い始めている。
春子さんの方も、少し大きい──小学生の女の子たちに囲まれて、お風呂の約束をされている。
「あの…春子さん、すみません。巻き込んじゃって。時間は大丈夫ですか?」
「ええ、少しくらい遅くなっても大丈夫です。風吹様こそ、お宅に戻られて問題ないのですか?」
「…はい。大丈夫です」
春子さん、優しい。
「帰り辛ければ遠慮なくいらしてください」
醜態を見せたばっかりなのに、こんなに親身になってくれて…。
「ありがとう。…でも、あそこが僕の家だから、ちゃんと帰ります」
「そう…ですか…」
首を少し傾げて、目を細めて笑む。
けれどその笑みは、決して楽しそうではなく、何処か淋しそうで………
「風吹っ」
高虎の悲痛な叫びに、ハッと意識を戻した。
「半分引き受けてくれませんか?」
「半分って…」
高虎の周りには、こんな言い方はなんだけれど、5人の幼女。
高虎って、幼女キラーだったんだ。
「2人で構いません」
「そっちが構うって。僕、竜弥と入るんだから。男の子とじゃイヤだよねー?」
「つかオレがやだっつーの!」
下から竜弥にグイッと手を引っ張られた。
「オレ、ふぶきの頭も体もぜ~んぶ洗ってやんだもん。そしたらふぶきはオレの体洗ってくれるだろ?」
「えっ…と、そうなの?まぁ、頭と背中は洗ってあげようとは思ってたけど」
「だから、自分でぜんぶできねー子どもとは入んねーの」
「なによー!ななちゃん、じぶんでできるもん!」
「いっつも先生と入ってるくせに~」
「でも、あたまもあらえるもん!」
「あたちもあらえゆー!」
小1と幼稚園児との言い争いに、頭の上で手も組めないような腕の長さの女の子が参戦する。
いや、どうサバ読んでも上限3歳児にそのロングヘアは洗えないだろう…。
ついつい心の中でつっこんで、いやいやそうじゃない。瞳に涙をいっぱい溜めたその子の様子にハッと気付いた。
「なに言ってんだよ。ゆゆかはベビーバスでもはいってろよ」
「こら竜弥。女の子に意地悪言わないの。そういう男らしくないの、僕は嫌いだぞ」
抱きあげて、頭をヨシヨシしてあげる。すると、ふえ~んと声を上げて結由花は泣き出してしまう。
例えばこの子が1~2才として、2年前の僕は26歳。普通に、自分の娘でもおかしくない年なんだよなぁ。
そう思うと、その泣き顔もちょっと愛おしい。
「よしよし。そうだよね、自分でできるもんなー」
「できら いーっ!」
おいおい、どっちだよ。
首にぎゅーっとしがみついてくる結由花の背中をポンポンと撫でて慰める。
「…ふぅきとはいゆ」
「ん?」
結由花はまだ言葉がつたなくて、何を言っているのか伝わらないことが多い。
親だったらちゃんと、分かってあげられるんだろうか。
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